ボルトの強度区分の理解がもたらす安心感とは

各数値は全て参考値です。万一トラブルが起きても当社では責任を負う事は出来ません

フランジのボルトナット

ボルトの強度区分を理解することは大きな安心感につながります。なぜならボルトの強度区分を知る事で「このボルトがどのくらいの力に耐えられるか」を数字で知ることができるからです。例えば見た目が同じM10のボルトでも強度区分が4.8のものと8.8のものでは耐えられる力が違います。

もし強度区分を知らずにボルトを使ってしまうと本来なら高強度ボルトが必要な場所に弱いボルトを使ってしまうかもしれません。そうするとボルトが伸びきったり折れたりして機械が壊れたり、最悪の場合は大事故につながる危険もあります。逆に強すぎるボルトを使うとコストが高く、加工や交換が難しくなるデメリットも出ます。だからこそ、強度区分を理解して「この部分には8.8で十分だ」「ここは10.9を使わないと危ない」と判断できると適材適所で選べ、安心して作業や設計が可能になります。

ボルトの強度区分とは?

ボルトの強度区分というのはボルトが「どれくらいの力に耐えられるか」を表す数字のことです。これはボルトの性能を一目でわかるようにするための国際的なルールで特に工業や建設の現場ではとても大切な指標になります。例えばボルトの頭に「8.8」や「10.9」といった数字が刻まれているのを見たことがあるかもしれません。この数字には意味があります。最初の数字はそのボルトの引張強さ、つまり「どれくらい強く引っ張られても耐えられるか」を示しています。単位はMPa(メガパスカル)で、1MPaは1平方ミリメートルあたり1ニュートンの力です。「8」と書かれていれば、おおよそ800MPaの強さを持っているということになります。

次に小数点以下の数字は「降伏点の割合」を表しています。降伏点というのはボルトが元に戻らないほど伸びてしまう前の限界の力のことです。たとえば「8.8」と刻まれているボルトなら引張強さが800MPaでその8割、つまり約640MPaまでは変形せずに耐えられるという意味になります。この考え方は強度区分の理解に欠かせません。

ボルト強度区分の使い分けについて

ボルト強度区分の使い分けは用途によって異なります。家具や軽量の金具、建築物のちょっとした部材の固定といった、大きな力がかからない場面では 4.6 や 5.6 のような低い強度区分のボルトで十分です。こうしたボルトはコストも低く、加工や扱いも簡単なので、家庭用や軽作業に適しています。

一方で自動車や産業機械、建設現場で使われる中程度の荷重を受ける部品には 8.8 クラスのボルトがよく用いられます。このクラスは強度とコストのバランスが良く、多くの機械部品や車の足回りなど、強度が必要だが極端な高負荷ではない場所に最適です。

さらに大きな荷重や強い振動、または安全性が特に重視されるような場面では10.9 や 12.9 といった高強度のボルトが使われます。たとえば橋や高層建築、風力発電のタワーや大型トラックのホイール固定など、重大な事故につながりかねない重要な接合部に使われるのがこのクラスです。

ただし、強いボルトなら何でも良いというわけではありません。必要以上に高い強度区分を使えばコストが上がるだけでなく、材料が硬すぎて逆に脆くなることがあり、衝撃や疲労で破断しやすくなることもあります。そのため、使う場面に応じて「ちょうど良い強さ」を選ぶことがとても大切です。

初心者が理解しておくべきポイントは数字が大きいほど強いが必ずしも強ければ良いわけではないということです。軽い家具や金具なら 4.6 や 5.6、自動車や一般的な機械には 8.8、重機や大型構造物には 10.9 以上といったように用途に合わせた選び方をすれば安全で効率的な締結ができます。

ボルトの強度区分材質一覧

強度区分 引張強さ Rm (N/mm²) 降伏点 Re (N/mm²) 特徴(伸びきる荷重条件) 代表材質(JIS例)
3.6 300 180 (60%) 180N/mm²以上で伸び切る SS400, S20C
3.8 300 240 (80%) 240N/mm²以上で伸び切る SS400, S20C
4.6 400 240 (60%) 240N/mm²以上で伸び切る S25C, S30C
4.8 400 320 (80%) 320N/mm²以上で伸び切る S25C, S35C
5.6 500 300 (60%) 300N/mm²以上で伸び切る S35C, S40C
5.8 500 400 (80%) 400N/mm²以上で伸び切る S35C, S45C
6.8 600 480 (80%) 480N/mm²以上で伸び切る S40C, S50C
8.8 800 640 (80%) 640N/mm²以上で伸び切る S45C, SCM435(Cr-Mo鋼)
9.8 900 720 (80%) 720N/mm²以上で伸び切る SCM435, SNCM439
10.9 1000 900 (90%) 900N/mm²以上で伸び切る SCM440, SNCM439(Cr-Mo, Ni-Cr鋼)
12.9 1200 1080 (90%) 1080N/mm²以上で伸び切る SCM440, SNCM447(高級合金鋼)

N/mm²(ニュートン毎平方ミリ)面積に対して「材料がどれだけ耐えるか」を示す。これは応力や圧力の単位 です。
例:800 N/mm² → 1mm²の断面に対して800N(ニュートン)(約80kgの重さ)の力に耐えられるという事です。

このように数字を見るだけで「このボルトはどのくらいの力に耐えられるか」「どのくらいまで使っても安全か」がすぐにわかる仕組みになっています。実際の現場では、軽い家具などには強度区分が低めの「4.6」クラスのボルトを使い、自動車や重機の重要な部分には「10.9」や「12.9」といった非常に強いボルトが使われます。ここで重要なのは、強度区分が示す数値を理解して適切に選ぶことです。もし強度区分の低いボルトを間違って重要な箇所に使ってしまうと、折れたり緩んだりして大事故につながりかねません。逆に必要以上に強度区分の高すぎるボルトを使うとコストが高くなり、加工や取り扱いも難しくなるというデメリットがあります。そのため、強度区分を基準にした選択は欠かせません。要するに、強度区分を理解することこそが、現場の安全と効率を守るための基本なのです。

ナットの表面に刻まれている 数字は強度区分、アルファベットはメーカー識別や材質・仕様を示す追加情報です。
特に ISO や JIS の規格では「強度区分+製造者識別マーク」をセットで表示することが義務付けられています。

強度区分ごとの材質・化学成分・用途一覧表

強度区分 主な材質 代表的な化学成分 (質量%) 熱処理 特徴・用途
3.6 / 3.8 低炭素鋼 (SS400相当) C ≤ 0.25%, Mn ≤ 0.6%, Cr・Moなし 熱処理なし(圧延まま) 加工性良いが強度低い。家具、軽量構造物。
4.6 / 4.8 低炭素鋼〜中炭素鋼 (S25C〜S35C) C 0.20〜0.35%, Mn ≤ 0.8% 焼きならし 汎用低強度ボルト。建築、軽機械。
5.6 / 5.8 中炭素鋼 (S35C〜S45C) C 0.30〜0.45%, Mn 0.5〜0.9% 焼きならし、場合により調質 強度やや高いが普及少ない。軽荷重機械用。
6.8 中炭素鋼〜低合金鋼 (S40C, SCMn) C 0.35〜0.45%, Mn 0.6〜1.0%, Cr少量 焼入れ+焼戻し 中強度ボルト。機械用途で一部使用。
8.8 中炭素鋼 (S40C, S45C) または低合金鋼 (SCM435) C 0.25〜0.55%, Mn 0.5〜1.0%, Cr 0.4〜1.2%, Mo ≤ 0.3% 焼入れ+焼戻し(調質) 最も一般的。建築、機械、自動車などあらゆる分野。
9.8 低合金鋼 (SCM435, SNCM) C 0.30〜0.40%, Mn 0.6〜1.0%, Cr 0.5〜1.5%, Mo 0.15〜0.3% 焼入れ+焼戻し 使用例は少ない。特殊用途。
10.9 合金鋼 (SCM440, SNCM439) C 0.30〜0.40%, Cr 0.9〜1.2%, Mo 0.15〜0.3%, Ni ≤ 0.4% 焼入れ+焼戻し 高強度。自動車足回り、重機、重要部位。
12.9 高級合金鋼 (SCM440, SNCM) C 0.35〜0.45%, Cr 1.0〜1.5%, Mo 0.2〜0.5%, Ni ≤ 0.5% 厳格な焼入れ+焼戻し 超高強度。航空機、競技車両、精密機械。水素脆化に注意。

ボルト強度計算について

ボルト強度計算というのは簡単に言うと「このボルトがどれくらいの力に耐えられるのか」を数字で見積もる作業です。ボルトはナットで締め込むとほんのわずかに伸びて内部に張力が生まれます。この張力がゴムひもを引っ張ったような状態を作り出し、その力で部品同士をしっかりと押さえつけているのです。

ボルトの強さを決めるのは大きく分けて二つあります。一つは太さで太いボルトほど大きな力に耐えられます。もう一つは材質で鉄の種類や熱処理の仕方によって「硬さ」や「粘り強さ」が変わってきます。この二つの要素を組み合わせて、そのボルトがどのくらいの荷重に耐えられるのかを判断します。つまり、ボルトの強度は太さ×材質、そして強度区分によって決まります。

ここで登場するのが「強度区分」です。ボルトの頭に刻まれている「8.8」や「10.9」といった数字は材質の強さを示しており、具体的には引張強さと降伏点の比率を表しています。例えば先述したように強度区分8.8という刻印は「このボルトはおよそ800N/mm²の引張強さを持ち、その8割の640N/mm²を超えると伸び切って元に戻らない」という意味になります。

実際の計算ではまずボルトのねじ谷部分の有効断面積を求め、そこに強度区分で示される引張強さを掛け合わせます。例えばM10のボルトで強度区分8.8の場合、有効断面積はおよそ58mm²ですから、800N/mm²を掛けると46,400N、つまり約4.7トンの力に耐えられることになります。ただしこれは理論上の最大値なので実際の設計ではその6割から7割程度、つまり3トン前後を安全な使用限界として考えます。強度区分を理解していれば、この安全率をどう設定すべきかも正しく判断できるのです。

要するに、ボルト強度計算の本質は、太さと材質、そして強度区分からそのボルトが「どこまで伸ばしても安全か」を見極めることです。ボルトはただの鉄の棒ではなく、設計上はゴムひものように「少しだけ伸ばして使う」ものだと考えると、とてもわかりやすいでしょう。実際の現場では強度区分を読み取ることが安全設計の出発点になるのです。

締め付けトルクを求める計算方法

まず出発点は「ボルトにどれくらいの軸力を与えたいか」です。ボルトを締めるときは内部に引っ張り力(締付け軸力)が生まれます。これが大きいほど緩みにくくなりますが大きすぎると破断やねじ山の損傷につながります。そのため、通常はボルトの降伏点(伸び切る直前の強さ)の60〜70%程度を目安に軸力を決めます。次にその軸力を「回す力=トルク」に変換します。このときに重要なのが摩擦です。ボルトを回した力のうち、実際に軸を伸ばすのに使われるのはわずかで多くはねじ山と座面での摩擦に消費されます。一般的に摩擦の影響をまとめて扱うために「トルク係数 K(0.16〜0.25程度)」が用いられます。計算式は以下の通りになります。

T=K×F×d

  • T は締付けトルク(N·m)
  • K はトルク係数(摩擦条件によって変わる。通常0.2前後を仮定)
  • F は締付け軸力(N)
  • d はボルトの呼び径(m)

例えば、M10の強度区分8.8ボルトを考えてみます。有効断面積は約58mm²、降伏点は640N/mm²なので、降伏荷重は約37,000N。その70%を目標軸力とすれば26,000N程度です。呼び径dは0.01m、トルク係数を0.2とすると

となり、これがM10で強度区分8.8ボルトの目安となる締付けトルクになります。

ボルト呼び径と有効断面積一覧(並目ねじ)

呼び径 ピッチ (mm) 有効断面積 Aₛ (mm²)
M6 1.0 20.1
M8 1.25 36.6
M10 1.5 58.0
M12 1.75 84.3
M14 2.0 115
M16 2.0 157
M18 2.5 192
M20 2.5 245
M22 2.5 303
M24 3.0 353
M27 3.0 459
M30 3.5 561

この記事を書いた人

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