重くて扱いにくい振動工具は手や指に大きなダメージを与えます。捻挫や歪み、過労は身体に深刻な事態を招くだけでなく、命にかかわることもあります。死亡事故にもつながりかねません。仕事上の労働関連筋骨格系障害として知られる衰弱性の慢性疾患を引き起こすこともあります。労働関連筋骨格系障害は主に手腕振動症候群として知られています。
振動工具を使用する事のリスク
振動工具を使用する際にはいくつかの重大な危険が伴います。まず挙げられるのが「振動障害」と呼ばれる健康被害です。長時間にわたり電動ドリルやハンマードリル、チェーンソーなどの振動工具を使用すると手や腕の血管、神経、筋肉、さらには骨にまで影響を及ぼす可能性があります。特に「振動白指症」と呼ばれる症状があり、これは手指の血流が悪くなり、寒冷時に指先が白く変色する現象を引き起こします。この状態が進行すると、手の感覚が鈍くなり、細かい作業が難しくなったり、痛みを感じたりすることもあります。さらに、神経に影響が及ぶことで指先が慢性的にしびれたり、握力が低下したりするなど、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。
次に振動工具の使用による直接的な事故や怪我のリスクも無視できません。例えば、電動ドリルやグラインダー、チェーンソーなどでは、作業中に工具が材料に引っかかり、突然跳ね返る「キックバック」現象が発生することがあります。この衝撃により工具の制御が難しくなり、手を離してしまったり、誤って身体に当ててしまったりすることで、大きな怪我につながる可能性があります。また、作業中に手袋や衣服が工具の可動部分に巻き込まれたり、指を挟み込んだりすることで、手指を損傷するリスクもあります。さらに、グラインダーや削岩機などを使用すると、金属片や石片、木片が飛散するため、これが目に入ることで視力障害を引き起こしたり、皮膚に当たって裂傷を負ったりする危険もあります。
加えて、長時間の作業による疲労や集中力の低下も、事故の発生率を高める要因となります。振動工具は手や腕に大きな負担をかけるため、使用を続けるうちに筋肉が疲労し、握力が弱まります。その結果、工具を正しく保持できなくなったり、操作ミスを引き起こしたりすることがあります。また、疲労や注意力の低下によって、足元の電源コードに引っかかる、バランスを崩して転倒するなど、思わぬ事故が発生する可能性もあります。
さらに、振動工具は騒音を伴うことから、聴覚にも悪影響を及ぼします。例えば、削岩機やインパクトレンチなどの騒音レベルが高い工具を長時間使用すると、耳に負担がかかり、騒音性難聴を引き起こすことがあります。特に、高音域の音が聞こえにくくなる症状が現れることが多く、進行すると回復が難しくなります。また、騒音による耳鳴りや頭痛が発生し、集中力の低下を招くことで、作業の効率が悪化することも考えられます。
振動工具の使用は周囲の環境にも影響を与える可能性があります。例えば、削岩機やハンマードリルなどを使うことで、コンクリートのひび割れが発生することがあります。また、振動が地盤に影響を及ぼし、土砂崩れや地盤沈下の原因となる場合もあります。このような影響は、作業現場の安全性だけでなく、建物の構造や周辺環境にも悪影響を及ぼすため、十分な注意が必要です。
これらの危険を防ぐためには、適切な予防策を講じることが重要です。振動障害を防ぐためには、防振手袋を着用し、作業時間を適切に管理することが推奨されます。また、寒冷環境では手を温めることも、血流を確保し振動白指症の予防につながります。事故を防ぐためには、工具をしっかりと固定し、無理な姿勢で作業をしないことが大切です。加えて、安全ゴーグルや防護服、耳栓などの適切な保護具を装着し、周囲の安全確認を徹底することで、怪我や事故のリスクを減らすことができます。
また、振動や騒音の影響を最小限に抑えるためには、可能な限り低振動・低騒音の工具を選ぶことも有効です。作業場の環境に応じて防振マットを使用することで、振動の伝達を抑え、周囲への影響を軽減することもできます。作業計画を立てる際には、振動や騒音が及ぼす影響を考慮し、安全かつ効率的な作業方法を選択することが求められます。
振動系工具の使用は非常に便利であり、作業の効率を高めることができますが、その一方で、適切な管理を怠ると健康被害や事故につながるリスクが高まります。安全対策をしっかりと講じ、正しい使用方法を守ることで、作業者の健康と安全を確保しながら、作業を円滑に進めることができるでしょう。
その仕事はあなたの人生に見合うものですか?
自動車整備士は複雑な機械に命を吹き込み、ドライバーや乗客の安全を確保する仕事です。しかし 米国労働統計局の報告書によると「整備士は一般的な労働者よりも仕事中に負傷したり死亡したりする可能性が高い。」との事です。このレポートでは冷ややかな統計が示されています。例えば2003年から2005年にかけてアメリカでは147人の整備士が仕事中に死亡していることをご存知ですか?
この死亡率は非軍事的な職業の合計よりも高いのです。2005年の整備士の月間休業日数(中央値)は5日でした。同報告書によるとこれは「全職種の中央値である7日よりも少ないのです。働き者であることはいいことだが仕事そのものがこんなに大変で、危険なものである必要はあるのでしょうか。
より良い職場のために、より良い道具をデザインする
労働関連筋骨格系障害の発生を防ぐ、あるいは最小限に抑えるには以下の方法があります。 最適なパフォーマンスだけでなく、使用する人の快適性も考慮して設計された工具を使用する人の快適さにも配慮して設計された工具を提供することで業関連筋骨格系障害を予防、あるいは最小限に抑えることができます。
人間工学的に設計された工具は作業者の疲労や怪我を軽減し、職場全体の効率を高めるのに役立ちます。米国疾病管理予防センターによると人間工学の第一の目標はストレスを減らし 筋肉の使い過ぎや悪い姿勢に起因する怪我や障害をなくす事です。
これは作業スペース、コントロール、ディスプレイ、ツール、照明、および機器を設計することによって達成されます。従業員の身体的能力や制限に合うように設計することです。自動車修理やメンテナンスの作業では普段使っている工具は仕事を上手に素早くこなせるように設計されている必要があります。重い電動工具を軽量化したり、複数の工具の機能をひとつにまとめたりすることでダウンタイムを回避できるようになります。
ツール選択に関するプロのヒント
ボルト締め工具を選ぶとき、あるいは一般的な工具を選ぶとき、大胆な宣伝文句に惑わされないでください。メーカーが 「人間工学に基づいた設計」という言葉を使っても、その工具の設計が本当に正しいとは限りません。必要な仕事に最適な道具を手に入れるためには自分の仕事と作業環境を徹底的に評価する必要があります。
ある人には良くてもあなたには合わないかもしれません。基本的なガイドラインに従う事が前提でより多くの情報を得た上で決断することができます。電動工具を選ぶ際には振動や接触ストレスに特に注意するよう推奨します。