ローターセイルとは?仕組み・燃費削減効果・導入事例を解説

船舶の甲板でローターセイルを設置する作業員と造船所の風景

ローターセイルの据付作業

ローターセイルとは、船舶の甲板上に設置した円筒をモーターで回転させ、風によって生じる「マグヌス効果」を利用して推進力を得る風力推進補助装置です。主機関の負荷を軽減することで、燃料消費量やCO2排出量の削減につながります。

近年はフェリー、タンカー、ばら積み船などへの導入が進んでおり、船体構造や甲板スペースなどの条件を満たせば、既存船へ後付けできる点も特徴です。本記事では、ローターセイルの仕組みや燃費削減効果、メリット・課題、導入事例に加え、実際の据付工事におけるボルト締結について解説します。

ローターセイルとは?

ローターセイルとは、船上に設置した円筒を回転させ、風による「マグヌス効果」を利用して船舶の推進を補助する装置です。燃料消費量やCO2排出量の削減につながる技術として、フェリー、タンカー、ばら積み船などへの導入が進んでいます。

本記事では、ローターセイルの仕組みや燃費削減効果、メリット・デメリット、メーカー、導入事例に加え、実際の据付工事におけるボルト締結について解説します。

ローターセイルを搭載したScandlinesのハイブリッドフェリー

ローターセイルの仕組み

ローターセイルは、主に「回転する円筒」「電動モーター」「基礎・支持構造」「制御システム」などで構成されています。船上に垂直に設置した円筒を電動モーターで回転させた状態で横方向から風を受けると、円筒の周囲に流速と圧力の差が発生します。この圧力差によって円筒には風向に対して横方向の力が発生します。この現象がマグヌス効果です。

発生する力のうち船の進行方向に作用する成分を利用することで、プロペラによる推進を補助します。その結果、同じ船速を維持する場合には主機関の負荷を低減でき、燃料消費量の削減につながります。

マグヌス効果とは

マグヌス効果とは、回転している円柱や球体などに流体が当たったとき、その物体の両側に流速と圧力の差が生じ、流れに対して横方向の力が発生する現象です。身近な例では、回転をかけたサッカーボールや野球のボールの軌道が曲がる現象にもマグヌス効果が関係しています。

ローターセイルの場合、回転する円筒に風が当たると、円筒の回転によって周囲の空気の流れが非対称となり、円筒表面の圧力分布に差が生じます。その結果、風向に対しておおむね直角方向に力(マグヌス力)が発生します。その力のうち船の進行方向に働く成分を推進力として利用します。つまりローターセイルは、単に「風に押されて進む帆」ではなく、風と回転する円筒によって発生する空気力を利用する装置です。

電動モーターで円筒を回転させる仕組み

ローターセイルは風によって自然に回転する装置ではありません。船内から供給される電力を利用し、電動モーターによって円筒を能動的に回転させます。風向や風速などの条件に応じて円筒の回転方向や回転数を制御し、効率的に推進力を発生させます。例えばJ-POWERと飯野海運の燃料輸送船「YODOHIME」に搭載されたローターセイルでは、センサーで取得した風向・風速などの情報を利用し、円筒帆の回転方向と回転数を自動制御しています。

円筒を回転させるためには電力が必要ですがローターセイルによって得られる推進力により主機関の負荷を下げられるため、運航条件が適していれば船舶全体として燃料消費量を削減できます。

ローターセイルのメリット・効果

ローターセイルの主なメリットは、風という再生可能エネルギーを船舶の推進に利用できることです。ローターセイルによる推進力で主機関を補助することで、燃料消費量やCO2排出量を削減できます。また、製品や船舶の条件によっては既存船への後付けも可能であるため、新造船だけに限定されないことも特徴です。ただし、削減効果は一定ではありません。船種、航路、風向・風速、船速、ローターセイルの大きさや設置基数などによって実際の効果は変化します。

燃料消費量を削減できる

ローターセイルによって船舶の推進力の一部を風力で補うことができれば、その分だけ主機関に必要な出力を低減できます。これがローターセイルによって燃料消費量を削減できる基本的な理由です。燃料削減率は船舶や航路によって異なります。例えばNorsepowerは、同社製ローターセイルについて一般的に5~25%程度の燃料削減効果があるとしています。ただし、これはすべての船舶で一律に得られる数値ではなく、風況や船舶の運航条件によって大きく変化します。

実船の例では、Maersk Pelicanに搭載された2基のローターセイルについて、試験で8.2%の燃料消費量および関連するCO2排出量の削減効果が確認されています。そのため、導入を検討する場合は「ローターセイルを設置すれば必ず○%削減できる」と考えるのではなく、対象船舶の航路や風況を含めた事前評価が重要になります。

CO2・GHG排出量を削減できる

ローターセイルによる推進補助によって主機関で使用する燃料を減らすことができれば、それに伴ってCO2などの温室効果ガス(GHG)排出量の削減につながります。国際海運では脱炭素化が大きな課題となっており、IMO(国際海事機関)の2023年GHG削減戦略では、国際海運全体の輸送量当たりCO2排出量を2030年までに2008年比で少なくとも40%削減する目標などが示されています。

ローターセイルは、燃料そのものを別の燃料へ変更する技術ではなく、風力によって船舶に必要な推進エネルギーの一部を補う技術です。そのため、既存の主機関と組み合わせながら燃料消費量や排出量を削減できる方法の一つとして注目されています。

既存船にも後付けできる

ローターセイルは新造船だけでなく、条件が合えば既存船へ後付けすることも可能です。一般的には、甲板上にローターセイルを支持するための基礎部分を設置し、その上にローターセイル本体を取り付けます。Norsepowerでは、新造船への組み込みだけでなく、既存船へのレトロフィットにも対応しています。

実際にScandlinesのハイブリッドフェリー「Copenhagen」では、高さ30m・直径5mのローターセイルが既存船へ後付けされています。ただし、どの船舶にも設置できるわけではありません。甲板スペース、船体構造、重心、エアドラフト、荷役作業への影響などを考慮して、設置可能性を検討する必要があります。

ローターセイルのデメリット・課題

ローターセイルには燃料消費量やCO2排出量の削減が期待できる一方、導入にあたってはいくつかの課題があります。第一に、効果が風況に左右されることです。ローターセイルは風を利用するため、風向や風速が適していない航路では十分な推進力を得られない場合があります。そのため、導入前には対象船舶の航路や気象データを分析し、期待できる燃料削減効果を評価することが重要です。第二に、甲板上に大型の装置を設置するため、船舶によっては荷役作業や視界、橋梁通過時の高さなどに配慮する必要があります。この課題に対応するため、メーカーによってはローターセイルを傾斜させる方式や、甲板上を移動させる方式も開発されています。さらに、ローターセイル本体や基礎構造の設置、電気設備、制御装置などが必要になるため初期投資が発生します。導入効果を判断する際には、燃料削減額だけでなく、設置費用やメンテナンス費用なども含めて検討する必要があります。

ローターセイルの代表的なメーカー

現在、商船向けローターセイルを開発・提供しているメーカーとして、Norsepower、Anemoi Marine Technologies、ECO FLETTNERなどがあります。

メーカー 主な特徴
Norsepower フィンランドのローターセイルメーカー。新造船・既存船への導入実績を持つ
Anemoi Marine Technologies 英国のメーカー。固定式のほか、レール式・折り畳み式などの展開システムを提供
ECO FLETTNER ドイツのローターセイルメーカー。ECO FLETTNER Rotorを展開

Norsepowerは複数のサイズのローターセイルを展開しており、既存船へのレトロフィットや傾斜式基礎にも対応しています。

Anemoi Marine Technologiesでは甲板に固定するタイプに加えて、荷役作業の妨げにならないようローターセイルを移動できる「Rail System」や、横倒しできる「Folding Deployment System」を展開しています。また、ドイツのECO FLETTNERでは、マグヌス効果を利用するECO FLETTNER Rotorを開発しています。

※ローターセイル以外にも、硬翼帆や吸引式帆などさまざまな風力推進補助技術が存在するため、「風力推進装置=すべてローターセイル」ではありません。

ローターセイルの導入事例

ローターセイルは実証段階だけでなく、すでにさまざまな商船で導入されています。日本企業が関係する代表例の一つが、J-POWERと飯野海運の燃料輸送船「YODOHIME」です。2024年12月にNorsepower製ローターセイル1基が搭載され、2025年1月に搭載後初航海を完了しました。搭載されたローターセイルは高さ24m、直径4mで、航海最適化システムとの併用により約6~10%の燃料消費量およびCO2排出量削減が見込まれています。

飯野海運の大型ガス船「Oceanus Aurora」には、高さ20m、直径4mのNorsepower製ローターセイル2基が設置されています。同船では燃料消費量とCO2排出量を約4%削減できると試算されています。また、400,000DWTの大型鉱石船「NSU TUBARAO」には、2025年にAnemoi製の高さ35m・直径5mのローターセイル5基が設置され、年間約6~12%の燃料消費量・排出量削減が見込まれています。このようにローターセイルは、フェリーだけでなく、ばら積み船、タンカー、ガス船など幅広い船種への導入が進められています。

ローターセイルの据付とボルト締結

ローターセイルは数十メートル規模になる大型構造物であり、船舶の甲板へ確実に固定する必要があります。そのため、据付工事ではローターセイル本体だけでなく、基礎や支持構造を固定するボルト締結も重要な工程となります。

HYTORCドイツが紹介しているStralsunder Dockgesellschaftの施工事例では、高さ約30m、直径約5mのローターセイルを船舶へ設置する工程でHYTORCのボルト締結工具が使用されています。この事例では、陸上での組み立て・試験から船上への最終据付まで、多数のボルトを指定された締付けトルクで締結し、確認・記録する作業が行われています。

試験基礎を304本のボルトで締結

ローターセイルを船上へ設置する前に、陸上で組み立てと機能確認を行うための試験基礎が設置されます。HYTORCドイツが紹介している事例では、プレハブの鋼製支柱から構成された幅10m×10m、高さ1.5mの試験基礎が使用されています。この試験基礎では304本のボルトを1,800Nmの締付けトルクで締結しています。指定された締付けトルクを確実に管理するため、HYTORCの油圧トルクレンチ「AVANTI」と「STEALTH」が使用されました。

多数のボルトを使用する大型構造物では、それぞれのボルトを指定された条件で締結し、締結品質を一定に管理することが重要になります。

104本のM36ボルトを2300Nmで締付け

試験基礎の完成後、その上にローターセイルを支持する鋼製タワーが取り付けられます。この事例では、鋼製タワーを104本のM36ボルト(二面幅55mm)で固定し、それぞれ2,300Nmで締め付けています。締付け後には各ボルトのトルクを確認し、確認済みであることが分かるようマーキングも行われています。機能試験が終了すると試験基礎との104本のボルト接続を一度解除し、ローターセイルをクレーンで船上へ吊り上げます。船上で再びローターセイルを据え付けた後も、104本のボルトを2,300Nmで締め付けます。締付け、確認、記録まで行った後、ローターセイルは最終的な検査を経て使用可能な状態になります。

HYTORCの油圧・電動トルクレンチを使用

ローターセイルの据付事例では、締結箇所によって作業スペースやボルトへのアクセス条件が異なるため、複数種類のボルト締結工具が使用されています。陸上の試験基礎ではHYTORCの油圧トルクレンチ「AVANTI」と「STEALTH」が使用されています。また、船上での最終据付では、コードレス電動トルクレンチ「LST 2000」に加えて、AVANTIとSTEALTHが使用されています。

大型構造物の締結では、単に高いトルクを出せる工具を選べばよいわけではありません。必要な締付けトルク、ボルトサイズ、周囲のスペース、反力の確保、作業性などを考慮して工具を選定する必要があります。特にローターセイルのように多数の大型ボルトを使用する設備では、指定された締付け条件に基づいて施工し、施工後の確認や記録まで含めて締結品質を管理することが重要です。

ローターセイルのボルト接合部の点検・メンテナンス

ローターセイルは、航行中に風や船体の動揺などによる荷重を受ける設備であるため、本体だけでなく支持構造やボルト接合部についても適切な点検・メンテナンスが必要です。HYTORCドイツが紹介しているStralsunder Dockgesellschaftの事例では、施工したローターセイルのボルト接合部について2年ごとに点検・メンテナンスを実施しているとされています。点検作業は船舶の運航中に実施される場合もあります。

ただし、「すべてのローターセイルは必ず2年ごとにボルトを点検する」という意味ではありません。実際の点検周期や点検方法は、ローターセイルメーカー、船級協会、船舶・設備の仕様、運用条件などに基づいて決定する必要があります。また、大型ボルト締結用の工具は非常に大きな力を発生するため、使用する工具の取扱方法や反力の取り方などについて十分な知識が必要です。作業前には使用する工具の取扱説明書や作業手順を確認し、適切な教育・トレーニングを受けた作業者が施工することが重要です。

ローターセイルについてよくある質問

ローターセイルとは簡単にいうと何ですか?

ローターセイルとは、船上に設置した円筒を電動モーターで回転させ、風と回転する円筒によって生じる「マグヌス効果」を利用して船の推進を補助する装置です。風力によって主機関の負荷を軽減し、燃料消費量やCO2排出量の削減を目的とします。

ローターセイルはどのような仕組みですか?

回転する円筒に風が当たると、円筒の左右で空気の流速と圧力に差が生じます。この圧力差によって発生するマグヌス力のうち、船の進行方向に働く成分を推進力として利用します。円筒は風で自然に回転するのではなく、電動モーターによって回転させます。

ローターセイルはどのくらい燃料を削減できますか?

削減率は船種、航路、風況、船速、ローターセイルの大きさや基数などによって異なります。Norsepowerでは同社製品について一般的に5~25%程度の燃料削減効果を示していますが、すべての船舶で同じ削減率が得られるわけではありません。

ローターセイルのデメリットは何ですか?

主な課題として、燃料削減効果が風向・風速や航路に左右されること、甲板上に設置スペースが必要になること、初期導入費用やメンテナンス費用が発生することなどがあります。また、船舶によっては荷役作業や橋梁通過時の高さを考慮した設計が必要です。

ローターセイルは既存の船にも設置できますか?

はい。船体構造や甲板スペースなどの条件を満たせば、既存船へ後付けできるローターセイルがあります。実際に既存船へレトロフィットされた事例もあります。ただし、船体構造や運航条件に応じた事前検討が必要です。

ローターセイルと普通の帆の違いは何ですか?

一般的な帆は帆面に風を受けて空気力を発生させます。一方、ローターセイルは電動モーターで円筒を回転させ、風との相互作用によって生じるマグヌス効果から推進力を得ます。どちらも風力を利用しますが、推進力を生み出す仕組みが異なります。

ローターセイルの主なメーカーはどこですか?

商船向けローターセイルを提供している企業として、フィンランドのNorsepower、英国のAnemoi Marine Technologies、ドイツのECO FLETTNERなどがあります。メーカーによってローターセイルのサイズや設置方式、制御方式などが異なります。

まとめ

ローターセイルは電動モーターで回転させた円筒と風によって生じるマグヌス効果を利用し、船舶の推進を補助する風力推進技術です。主機関に必要な出力を抑えることで燃料消費量やCO2排出量の削減が期待できます。すでにフェリー、ばら積み船、タンカー、ガス船などさまざまな船舶への導入が進んでおり、新造船だけでなく既存船へ後付けできるシステムもあります。一方で実際の燃料削減効果は風況や航路、船舶の仕様などによって異なるため、導入前の検討が重要です。

また、ローターセイルは数十メートル規模になる場合もある大型設備であり、甲板へ確実に設置するためには支持構造やボルト接合部の適切な施工が欠かせません。HYTORCの施工事例では試験基礎で304本のボルトを1,800Nm、ローターセイルを支持する鋼製タワーでは104本のM36ボルトを2,300Nmで締結しています。こうした大型設備では適切なボルト締結工具を使用するとともに、指定された締付け条件に基づいて施工・確認・記録することが重要です。

この記事を書いた人

ユネックス合同会社編集部は、産業用ボルト締結工具メーカー「HYTORC(ハイトーク)」の日本法人であるユネックス合同会社が運営する技術情報メディア「ハイトークナビ」の編集部です。トルクレンチ、トルク管理、ボルト締結、軸力、ねじ・ボルト・ナットなど、締結作業に関する情報を中心に発信しています。

ユネックス合同会社は、油圧・電動・空圧式のボルト締結工具の販売・レンタルや、ボルト関連製品を取り扱っています。編集部では、HYTORCの製品・技術資料や取扱説明書に加え、JIS・ISO等の規格、公的機関・業界団体の資料なども確認し、技術的な正確性を重視して記事を制作しています。専門的な内容をできるだけ分かりやすく整理し、ボルト締結やトルク管理に携わる方の課題解決に役立つ情報を提供することを目的としています。