
ボルトやナットを使った締結作業において、ワッシャーは非常に身近な部品です。しかし現場では「とりあえず入れている」「昔からこうしている」という理由だけで使われていることも少なくありません。ワッシャーは単なる補助部品ではなく、締結の安定性や安全性、さらには製品寿命にまで影響を及ぼす重要な役割を担っています。適切なワッシャーを選択できているかどうかで締結品質には大きな差が生まれます。
ワッシャーとはボルトやナットの座面と被締結物の間に挟み込んで使用する円盤状の部品です。その目的は一つではなく、座面圧を分散させること、相手材の表面を保護すること、締結力を安定させること、さらには振動や衝撃による緩みを防止することなど、多岐にわたります。ワッシャーの形状や材質、ばね性の有無によって役割が変わるため、用途に応じた選定が欠かせません。
反力ワッシャー

反力ワッシャーとは主に油圧トルクレンチや大型ボルト締付け時に発生する反力(トルクの戻り力)を受け止めるためのワッシャーです。通常のワッシャーが「座面保護」「面圧分散」「緩み防止」などを目的とするのに対し、反力ワッシャーは作業時の安全確保と工具の安定化を目的とした特殊な用途のワッシャーです。
【参考記事】ハイトークワッシャーシステム
バックアップワッシャー

ボルトの締め付け時にはしばしば反対側ナットの供回りが発生します。これを防ぐにはナットをバックアップレンチもしくはスパナ等で固定する必要がありました。バックアップワッシャーを使用すればバックアップレンチやスパナは不要になります。バックアップレンチやスパナの使用には手を挟む危険性があるだけなく作業も煩雑になり時間がかかります。バックアップワッシャーは安全性と作業スピードを低コストで大きく改善します。その効果は一度ご使用いただくと皆さん実感していただいております。
【参考記事】供回り防止向けワッシャー紹介
平ワッシャー

平ワッシャーは完全に平らな円盤形状をしており、あらゆる締結の基本として広く使用されています。ボルトやナットの締結力を広い面積で受け止めることで被締結物の表面にかかる面圧を低減し、座面の陥没や傷付きを防ぎます。特にアルミや樹脂、塗装された部材では平ワッシャーを使用するかどうかで外観品質や耐久性が大きく変わります。ただし平ワッシャー自体には緩みを防止する機能はほとんどなく、振動が発生する箇所では別の対策と併用する必要があります。また、平ワッシャーはトルクの伝達を安定させる効果も持っています。座面が平らで均一になるため、ナットの回転がスムーズになり、締結時の摩擦条件が安定します。その結果、トルク管理がしやすくなり、ばらつきの少ない軸力を得やすくなります。
ばね座金(スプリングワッシャー)

次に昔から広く使われてきたのがばね座金、いわゆるスプリングワッシャーです。切れ目の入ったC字状の形状をしており、締結時にわずかなばね反力を発生させることでナットやボルトの戻り回転を抑えようとするものです。一見すると緩み止めとして有効に見えますが近年ではその効果に疑問が呈されるケースも増えています。特に高強度ボルトや高軸力締結ではばね座金が塑性変形してしまい、期待した効果を発揮しないことがあります。そのため現在では軽負荷で振動の少ない箇所に限定して使われる傾向にあります。
歯付きワッシャー

より積極的に回転を防止したい場合に使われるのが歯付きワッシャーです。ワッシャーの内周または外周にギザギザの歯が設けられており、締結時に相手材へ食い込むことで回転を抑制します。この歯が塗装膜や酸化皮膜を破るため、電気的な導通を確保したい場面でも有効です。制御盤や電装部品、モーター周辺などで多く採用されています。ただし歯が相手材を傷つけるため、外観品質が求められる箇所や再使用を前提とした締結には注意が必要です。
ハードワッシャー

高い軸力を正確に管理する必要がある締結では座面ワッシャーやハードワッシャーと呼ばれる高硬度のワッシャーが使用されます。これらは焼入れ鋼などで作られており、ボルトやナットの強い締結力によって座面がめり込むのを防ぎます。座面が安定することで摩擦条件が一定になり、トルク管理や回転角法といった締結管理手法の再現性が向上します。大型設備や高力ボルトを使用する構造物では締結の信頼性を確保するために欠かせない存在です。
皿ばねワッシャー

ばね性を積極的に利用するワッシャーとしては皿ばねワッシャーがあります。円錐形状をしており、締結時に強いばね力を発生させます。このばね力によって、温度変化による膨張や収縮、あるいは振動による微小な緩みが発生しても、軸力を維持しやすくなります。精密機械や高温環境、繰り返し荷重がかかる箇所で特に効果を発揮します。複数枚を組み合わせることで特性を調整できる点も、皿ばねワッシャーの大きな特徴です。
シムワッシャー

締結というよりも位置決めや調整の目的で使われるのがシムワッシャーです。非常に薄い板状のワッシャーで厚み精度が高く、複数枚を組み合わせることで微調整が可能です。ベアリングの予圧調整やシャフト位置の微調整など、精度が要求される組立工程で多く用いられます。見た目は地味ですが、機械の性能や寿命を左右する重要な役割を果たします。
テーパーワッシャー

テーパーワッシャーは取り付け面が傾いている場合でもボルトやナットを正しく締結するための調整用ワッシャーです。主に形鋼や鋳物など、座面が平行でない部材に使われます。テーパーワッシャーの最大の特徴はワッシャー自体に角度(テーパー)が付いている点です。この角度によって、傾斜した面の上に置いても、上側(ボルト・ナットが当たる面)を水平に近づけることができます。その結果、ボルト軸に対して偏った力がかかるのを防ぎ、締結部の信頼性を高めます。
例えば、H形鋼や溝形鋼(チャンネル鋼)ではフランジの内側が斜めになっていることが多く、そのまま平ワッシャーを使うとナットが傾いた状態で締まってしまいます。この状態ではボルトに曲げ応力が発生しやすく、緩み・疲労破壊・座面の局部損傷といったトラブルにつながります。テーパーワッシャーを使用する事でナットが面全体で均等に当たり、軸力を素直にボルトへ伝えることが可能になります。
使い方としては傾斜している部材側にテーパーワッシャーを入れ、ナットやボルト頭が当たる面を平行に補正するのが基本です。向きを間違えると逆に傾きが大きくなるため、テーパーの向きには注意が必要です。用途としては、鉄骨構造物、架台、配管サポート、機械フレームなど、形鋼同士をボルト締結する場面でよく使われます。特に建築・プラント・重機分野では、テーパーワッシャーの有無が締結品質に大きく影響します。
テーパーワッシャーの解説動画
くさびロックワッシャー

近年、強力な緩み防止対策として注目されているのがくさびロックワッシャーです。2枚1組で使用され、カム形状によるくさび効果を利用して、ボルトやナットが緩もうとする動きを機械的に阻止します。振動や衝撃が非常に大きい環境でも高い効果を発揮し、重機、鉄道、風力発電設備など、安全性が最優先される分野で採用が進んでいます。再使用が可能である点もメンテナンス性の面で評価されています。
ワッシャー選定においてよく見られる失敗として、平ワッシャーを入れているから緩まないと思い込んでしまうことや高力ボルトにばね座金を組み合わせてしまうケースがあります。また、歯付きワッシャーによって外観不良が発生したり、ワッシャーを省略した結果としてアルミ部材が座面陥没を起こすことも少なくありません。これらはすべて、ワッシャーの役割を正しく理解していないことが原因です。
ワッシャーは小さな部品ですがその選択一つで締結品質は大きく変わります。緩みを防ぎたいのか、座面を保護したいのか、軸力を安定させたいのか、あるいは位置を調整したいのか。その目的を明確にし、使用環境や締結条件を踏まえて適切な種類を選ぶことが重要です。ワッシャーを正しく使い分けることは締結技術の基礎であり、現場力そのものと言っても過言ではありません。
