
シリンダーヘッドボルトのボルト締結作業
トルクレンチを用いたトルク管理は機械設備や構造物の安全性と耐久性を確保するために非常に重要な役割を果たします。トルクレンチを用いてトルク管理をおこなう際に注意しないといけないのはボルト径やボルトの材質の組み合わせでそれぞれ最適なトルク値があり、そのトルク値よりも大幅に強い力でボルト締結を行うとボルトやナットに破損が生じてしまう恐れがあります。トルクとは簡単に言うと「回転させる力」のことを指し、「力 × 距離」で求められます。単位は「N・m(ニュートンメートル)」が一般的に使用され、例えば10Nの力で1mの長さのトルクレンチを回した場合、トルクは10N・mとなります。正しい方法でトルクレンチを使ってトルク管理をおこなう事が重要です。
トルクレンチで適切なトルク管理が求められます

トルク管理はトルクレンチで
ボルトやナットを締め付ける際にはそれぞれの規格に応じた適正なトルク値が決められており、そのトルク値を守ることが非常に重要です。トルクが不足するとボルトが緩みやすくなり、振動や衝撃によって部品が外れる原因になります。一方で締め付けすぎるとボルトが伸びたり、最悪の場合折れてしまうこともあります。
つまり可能な限り最適なトルク値でボルトを締結する必要があります。特にボルトやナットを適切な力で締め付ける事は設備の性能維持や事故の防止に直結します。適切なトルクでボルトを締め付けることで安全性が向上し、設備の寿命が延びるだけでなく、メンテナンスの効率化やコスト削減にもつながります。
例えばトルクが不足していると部品の脱落や緩みが発生しやすくなり、機械の故障や重大な事故につながる危険があります。一方でボルトナットを過剰に締め付けるとボルトが破損しやすくなったり、材料に過度な負荷がかかることによって耐久性が損なわれる可能性があります。そのため、作業現場では常にトルク管理を意識し、正しいトルク値を設定し、適切なボルト締結工具を使用することが求められます。
ボルトがばねのように働く理由
ボルトを締めると軸方向に引っ張られる力(軸力)が発生します。これはボルトが少し伸びた状態になり、その伸びが元に戻ろうとする力(弾性力)を生むためです。つまり、ボルトはまるで伸びたばねのような性質を持ち、締結部を強く押さえつける力を生み出します。この軸力が十分に確保されていれば、振動や外力が加わっても接合部が安定し、ボルトが緩みにくくなります。
過剰な締め付けの危険性
ただし、ボルトを締めすぎるとばねとしての限界を超えてしまい、塑性変形(元に戻らない変形)が起こります。この状態ではボルトが適切な軸力を維持できなくなり、破断するリスクが高まります。したがって、適切なトルクで締め付けることが非常に重要です。
間違いやすいトルク管理の落とし穴と対策
トルク管理はボルトやナットを適切な締め付けトルクで固定するために欠かせない作業ですが現場ではよく間違えられるポイントがいくつもあります。こうした誤ったトルク管理は部品の破損や脱落につながるだけでなく、重大な事故を引き起こす可能性もあるため、慎重に行う必要があります。そこでここでは間違いやすいトルク管理の落とし穴と、その対策について詳しく説明していきます。
トルク値の誤解 – 「強く締めるほど良い」は間違い!
まず、多くの人が勘違いしやすいのが「ボルトは強く締めるほどしっかり固定される」という思い込みです。しかし、これは大きな誤解です。ボルトには適正な締め付けトルクが定められており、それを超えて締めすぎるとボルトが伸びすぎたり、最悪の場合破断してしまうことがあります。例えば、自動車のホイールナットを規定値以上のトルクで締めすぎると、ボルトが変形し、最終的には走行中に破損してしまう可能性もあります。そのため、必ずメーカーの指定するトルク値を確認し、正しいトルクで締めることが重要です。また、トルクレンチを使用する際は設定したトルク値が適正であるかを事前にチェックし、確実に守ることが求められます。
トルクレンチの誤った使い方 – 適当に使うと正しいトルクにならない!
次にトルクレンチの使い方にも注意が必要です。正しく使用しなければ、せっかくトルクレンチを使っていても、適正なトルクで締めることができません。特にありがちなミスは勢いよく締めたり、力を入れすぎたりすることです。トルクレンチはゆっくりと均等な力で締めることが大切でプレセット型のトルクレンチであれば「カチッ」という音がしたら、それ以上締めないようにすることが重要です。音が鳴った後にさらに力を加えるとオーバートルクになり、ボルトやナットが損傷する原因になります。また、トルクレンチは精密な工具であるため、定期的に校正を行い、正確なトルク測定ができる状態を維持することが必要です。
さらに、「念のためにもう少し締めておこう」と考えるのも危険な行為です。一度適正なトルクで締めたにもかかわらず、追加で締めてしまうと、ボルトに過剰な負担がかかり、オーバートルクの状態になってしまいます。これにより、ボルトの疲労が進み、後になって突然破断することもあります。そのため、一度適正トルクで締めたら、それ以上の締め付けは行わないようにしましょう。
ボルトやナットの状態を無視 – 汚れやサビがトルクに影響する!
また、ボルトやナットの状態を無視して作業するのも、トルク管理において大きな落とし穴の一つです。例えば、ボルトやナットにサビや汚れがあると、締め付け時の摩擦が増減し、実際のトルク値がずれてしまうことがあります。摩擦が大きくなると、本来の締め付け力が得られず、逆に潤滑剤が塗られている場合は、摩擦が減ることで締め付けすぎるリスクが高まります。そのため、締め付け作業を行う前に、ボルトやナットの表面を確認し、必要に応じて清掃することが重要です。適切な処理を行わないと、トルク管理の精度が大きく低下してしまうリスクを伴います。
締め付け順序の間違い – 正しい順番で締めないとズレる!
複数のボルトを締める際には正しい順序で締め付けることも重要です。例えばフランジやエンジン部品などの平らな面を固定する際に適当に順番を決めて締めてしまうと一部のボルトに偏った力がかかり、均等に締め付けられなくなってしまいます。これにより、部品の歪みやガスケットの隙間が生じ、機械の性能や耐久性に悪影響を及ぼす可能性があります。この問題を防ぐためには対角線上に交互に締める「対角締め」を意識し、一度に強く締めるのではなく、何回かに分けて少しずつ締め付けることが大切です。こうすることで締結部全体に均一な力がかかり、確実な固定が可能になります。
トルクレンチの管理不足 – 精度が狂った工具で作業していないか?
最後にトルクレンチの管理不足もトルク管理のミスにつながる大きな要因です。トルクレンチは精密機器であり、長期間使用すると内部のバネが劣化し、測定精度が狂ってしまうことがあります。特に使用後にトルクレンチを最大トルクのまま保管してしまうと、バネが伸びてしまい、正しいトルクが測定できなくなる可能性があります。そのためトルクレンチは定期的に校正を行い、精度を保つことが大切です。また、使用後は最小トルクに戻して保管し、できるだけ衝撃を与えないように注意することが望ましいです。
トルクレンチの取り扱いに関する注意点とその理由
トルクレンチはボルトやナットを適正なトルクで締め付けるための重要なボルト締結工具ですが正しくトルクレンチを使用しなければ適切な締め付けができず、安全性や耐久性に影響を及ぼすことがあります。そのため、トルクレンチを使用する際にはいくつかの重要な注意点を守る必要があります。
使用前にトルクレンチの設定値を確認する

トルク値を設定する
まず、トルクレンチを使用する前には必ず設定したトルク値を確認することが大切です。ボルトにはそれぞれ適正な締め付けトルクが決められており、これを守らないと軸力が不足してボルトが緩んだり、逆に過剰なトルクがかかってボルトが伸びすぎたり破損する原因になります。特にトルクレンチの設定ミスによって誤ったトルクで締め付けてしまうと部品の破損や脱落につながる恐れがあるため、作業前にトルク値を確認し、メーカーが指定する適正なトルクを守ることが重要です。
ゆっくり均等な力で締め付ける

トルクレンチ
また、トルクレンチを使う際はゆっくりと均等な力で締め付けることが求められます。勢いよく力を加えたり、素早く締め付けたりするとトルクレンチの内部にあるバネや測定機構に負担がかかり、正確なトルク測定ができなくなる可能性があります。また、急激な締め付けは設定したトルクを超えて締めすぎてしまう原因にもなり、ボルトに余計な負荷をかけることになります。そのため、トルクレンチを使用する際は一定のスピードで慎重に力を加えながら、適切なトルクで締め付けることが重要です。
「カチッ」という音がしたら、それ以上締めない
さらに、プレセット型のトルクレンチを使用する場合は「カチッ」という音が鳴ったら、それ以上締め付けを行わないように注意しなければなりません。この音は設定したトルク値に達したことを知らせる合図であり、それ以上締め付けるとボルトに過剰なトルクがかかってしまうためです。適正なトルクを超えてボルトを締めすぎると、ボルトの弾性範囲を超えてしまい、金属疲労による破損のリスクが高まります。トルクレンチの機能を正しく活用するためにも「カチッ」と音がした時点で締め付けを止めることが大切です。
トルクレンチを逆方向に使用しない
また、トルクレンチは基本的に締め付け専用の工具であり、ボルトを緩めるためには使用しないことが原則です。トルクレンチの内部には、設定したトルクを測定・制御するための機構が組み込まれており、逆方向に使用すると内部のバネやギアに過剰な負担がかかり、測定精度が低下する可能性があります。特に、固着したボルトを緩めるために強い力で使用すると、トルクレンチ自体が破損することもあるため、ボルトを緩める作業には適切な工具(ラチェットレンチなど)を使用することが必要です。
トルクレンチを使用後は最小トルクに戻して保管する

トルクレンチはきちんと保管しましょう。
トルクレンチを使用した後は設定トルクを最小値に戻してから保管することが大切です。トルクレンチの内部にはバネを利用した測定機構があり、高いトルクのまま保管してしまうとバネが伸びた状態になり、次回使用する際に正確なトルク測定ができなくなることがあります。このような劣化を防ぐために使用後は必ず最小トルクに設定し、バネの負荷を解放した状態で保管することが重要です。
定期的にトルクレンチの校正を行う

トルクレンチの校正
さらにトルクレンチは長期間使用していると測定精度が低下することがあるため、定期的に校正を行う必要があります。トルクレンチの内部部品は使用頻度や環境によって摩耗し、徐々に誤差が生じる可能性があります。測定誤差が大きくなると適正なトルクで締め付けたつもりでも、実際には適正な軸力が確保されていない状態になり、結果的にボルトの緩みや破損を引き起こす原因になります。
トルクレンチを衝撃や落下から守る
トルクレンチは非常に精密な工具であるため、落としたり、強い衝撃を与えたりしないように注意することも大切です。内部には細かい部品が組み込まれており、落下や衝撃によってバネやギアにダメージが入ると、測定精度が狂ってしまいます。特に、高所で作業している場合や、工具箱の中で他の工具とぶつかるような状況では、できるだけ衝撃を避け、丁寧に扱うことが必要です。万が一トルクレンチを落としてしまった場合はそのまま使用せずに校正や点検を行ったうえで再使用するようにしましょう。
適切なトルクレンチを選ぶ

適切なトルクレンチを選択
トルクレンチを選ぶ際には作業内容に適したものを使用することが重要です。トルクレンチにはそれぞれ測定可能なトルク範囲が決まっており、適切な範囲内で使用しなければなりません。例えば、小さなボルトを締める作業で大きなトルクのトルクレンチを使うと、微妙な調整ができず、締めすぎる危険があります。逆に低トルク用のトルクレンチを高トルクの作業に使用するとトルクレンチ自体が破損する可能性があるため、作業内容に適したトルクレンチを選び、指定された範囲内で使用することが重要です。
作業現場におけるトルク管理の基礎知識

適切なトルク管理が必要
トルク管理作業を行う際にはまず、トルクレンチの校正状態を確認し、正しくトルク管理ができる状態であることを確認することが重要です。次に締め付けるボルトやナットの状態を点検し、摩耗や損傷、サビなどの異常がないかをチェックします。作業が始まるとトルクレンチを使用して指定されたトルク値で締め付けを行います。この際、均等に力を加え、急激なトルク変化が発生しないよう注意しながら作業を進めることが求められます。さらにボルトやナットの締め付け順序も重要であり、特にホイールのような部品では、対角線順に均等なトルクを加えることでバランスを取ることが推奨されています。
よくあるミスとその対策

リスク対策は必要
トルク管理において特に注意すべき点として締め付け不足や過剰な締め付けによる問題が挙げられます。締め付け不足はボルトやナットが緩みやすく、振動や衝撃によって脱落する可能性があります。一方で過剰な締め付けはボルトが伸びたり破損する原因となり、強度が低下してしまう危険があります。このようなトラブルを防ぐためには適切なトルクレンチを使用し、正確な値で締め付けることが重要です。さらにトルクレンチの校正を適切なタイミングで行い、正確な測定値を維持することも忘れてはいけません。
作業現場での安全対策も非常に重要です。トルク管理作業を行う際には安全な作業環境を整え、適切な保護具を着用することが求められます。また、作業手順を標準化し、作業者全員が共通の知識を持つことで、事故のリスクを低減することができます。定期的な教育や訓練を実施し、適正なトルク管理の習慣を根付かせることが、長期的な安全確保につながります。
不十分なトルク管理によって発生しうる事
不十分なトルク管理が行われた場合、以下のような問題やリスクが発生する可能性がありますので十分に注意する必要があります。
コストの増大

コストの増大は避ける必要があります
トルク管理が不十分だと部品の交換や修理が頻繁に発生し、その結果、企業にとって多大なコストが発生します。また、製品の品質不良によるクレームやリコールなども、企業の信用を損なうとともに、財政的な負担を増大させる要因となります。
法規制と品質基準の違反

違反しないように気をつける必要があります
特に航空機や自動車産業においてはトルク管理に関して厳しい規制が存在しています。これらの規制や品質基準に従わない場合、法的な問題が生じる可能性があり、製造業者に対する罰金や製品回収が発生するリスクもあります。
性能低下と故障

リスクがあります
トルク管理の不足や過剰は機械の性能を低下させる要因となります。緩みが生じると、振動や衝撃が部品に直接伝わり、他の部品や装置全体にダメージを与えることがあります。また、過剰なトルクで締めると、部品が破損しやすくなるため、故障の頻度が高まります。これにより、生産ラインの停止や修理コストの増加といった問題が発生します。
トルク管理システムの導入

管理システム
近年ではデジタル制御されたトルク管理システムが多くの産業で導入されています。これにより、リアルタイムでトルクの計測・管理が可能となり、作業の効率化と精度の向上が期待できます。ここでいうトルク管理システムは産業機械や自動車、航空機などの部品を組み立てる際にボルトやナットの締め付けトルクを正確に制御し、管理するためのシステムです。これは製品の品質向上、安全性確保、信頼性の維持に欠かせない重要なプロセスを自動化・デジタル化するための技術です。
中型ボルト以上のトルク管理について

中型以上のボルト締結作業一例
ある程度の大きなボルトをトルク管理する際に手動のトルクレンチを使用すると作業が大変になるのは事実です。なぜなら、高トルクをかけるには相応の力が必要となり、特に長時間作業を行う場合や狭い場所での作業では、腕や肩への負担が大きくなるためです。例えば、1メートルの長さのレンチを使って100N·mのトルクをかける場合、約10kgの力が必要になります。さらにレンチの長さが短い場合は、必要な力が倍増するため、作業の難易度が上がります。また、高トルクのボルトを何本も締める場合には疲労が蓄積し、正確な締め付けが困難になることもあります。
コードレス電動トルクレンチについて

高パフォーマンス
コードレス電動トルクレンチとは電動モーターとバッテリーを搭載したトルクレンチで手動の力を使わずにボルトやナットを設定したトルクで締め付けることができるボルト締結工具です。通常の手動トルクレンチと違い、作業者が力を加える必要がないため、高トルクの締め付け作業でも負担が大幅に軽減されます。また、バッテリー駆動のためコードレスで使用でき、電源の確保が難しい現場や屋外での作業にも適しています。
このタイプのトルクレンチは正確なトルク管理が可能で、多くのモデルにはデジタル設定機能やトルク記録機能が備わっています。例えば、あらかじめトルク値を設定しておくことで、ボルトの締め付けがその値に達した際に自動的に停止したり、警告を発したりするため、締めすぎや締め不足のリスクを抑えられます。また、一部のモデルでは作業データを保存し、BluetoothやUSB経由で記録を管理できるため、品質管理の面でも優れています。
コードレス電動トルクレンチのメリットは作業者の負担を大幅に軽減できることです。特に100N·m以上の高トルク作業では、手動トルクレンチを使用すると相当な力が必要になりますが、バッテリー式であればスイッチを押すだけで正確に締め付けることができます。また、エア式のインパクトレンチに比べると振動や騒音が少ないため、長時間の作業でも疲れにくく、作業環境の向上にも貢献します。