
シールドマシンとは地盤を掘り進みながら、トンネルの壁となる「セグメント」を組み立てる大型の掘削機械です。地下鉄や道路トンネルだけでなく、下水道、共同溝、送水管、電力・通信設備など都市の地下インフラ工事に幅広く使われています。
地上から溝を掘る開削工法と比べて、道路交通や周辺建物への影響を抑えやすく、軟弱地盤や地下水の多い場所でも施工しやすいことが特徴です。一方、シールドマシンは工事ごとに直径、地質、地下水圧、曲線半径などを考慮して設計されるため、値段や速度を一律には示せません。工事完了後も、必ずしも機械全体がそのまま置き去りになるわけではありません。この記事ではシールドマシンの構造と動く仕組み、掘進速度、値段の考え方、発明の歴史、メーカー、使い捨てといわれる理由、工事後の撤去・残置・再利用までわかりやすく解説します。
シールドマシンとは

シールドマシンは円筒形の鋼製外殻で周囲の地盤を支えながら、先端のカッターヘッドを回転させて土や岩を削る機械です。機械の後方では分割されたコンクリート製または鋼製の部材であるセグメントをリング状に組み立てます。このリングがトンネルの壁となり、完成した壁を反力にして機械がさらに前進します。シールド工法がよく用いられるのは次のような場所です。
- 地下鉄や鉄道のトンネル
- 自動車専用道路や地下道路
- 下水道、雨水貯留管、送水管
- 電力・ガス・通信設備を収容する共同溝
- 河川や海底を横断するトンネル
最大の利点は発進立坑と到達立坑を設ければ、地表を広い範囲で掘り返さずに地下トンネルを造れることです。交通量や建物が多い都市部では地上への影響を小さくできる点が大きなメリットになります。ただし、発進・到達立坑の用地確保、地中障害物への対応、掘削土の搬出、周辺地盤への影響管理などが必要です。シールドマシンを使えば、どのような地盤でも簡単に掘れるというわけではありません。
シールドマシンの構造について解説
シールドマシンは単に土を削るだけの機械ではありません。「掘る」「切羽を安定させる」「土を運び出す」「機体を前進させる」「トンネル壁を組み立てる」という複数の作業を連続して行う設備です。主な構成部分は次のとおりです。
| 構成部分 | 主な役割 |
|---|---|
| カッターヘッド | 先端で回転し、地盤や岩盤を削る |
| カッタービット | カッターヘッドに取り付けられ、土や岩に直接接触する刃 |
| チャンバー・隔壁 | 掘削面である切羽の土圧・泥水圧を保持し、崩壊や地下水流入を抑える |
| カッター駆動装置 | 電動機や減速機でカッターヘッドを回転させる |
| 排土設備 | スクリューコンベヤー、ポンプ、配管などで掘削土を搬出する |
| シールドジャッキ | 完成したセグメントを押して機体を前進させる |
| エレクター | セグメントを所定位置に運び、リング状に組み立てる |
| テールシール | 機体後部とセグメントの隙間から土砂や地下水が入るのを防ぐ |
| 裏込め注入設備 | セグメント外周と地盤の隙間に材料を注入し、地盤沈下を抑える |
| 計測・制御設備 | 位置、方向、圧力、推力、トルク、排土量などを監視・制御する |

シールドマシンが前進する仕組み
基本的な掘進サイクルは、次の5段階です。以下のサイクルを繰り返し、円形のトンネルを少しずつ延ばします。機械は自走車のようにタイヤで進むのではなく、すでに造ったトンネル壁を後方へ押す反力によって前進します。
- カッターヘッドを回転させて地盤を掘削する
- チャンバー内の圧力を管理し、切羽を安定させる
- 掘削した土砂をスクリューコンベヤーや泥水配管で地上へ運ぶ
- シールドジャッキで既設セグメントを押し、機体を前進させる
- ジャッキを一部縮め、エレクターで新しいセグメントを組み立てる
泥土圧式と泥水式の違い
都市部で使われる密閉型シールドは、主に泥土圧式と泥水式に分けられます。
| 方式 | 切羽を支える方法 | 排土方法 | 特徴 |
| 泥土圧式 | 掘削土に添加材を混ぜ、流動性を持たせた土の圧力で支える | スクリューコンベヤーなど | 市街地の多様な地盤で採用例が多い |
| 泥水式 | 加圧した泥水で切羽を支える | 泥水と掘削土を配管で送り、地上設備で分離する | 高水圧下や砂礫地盤、大断面に適用しやすい |
どちらが優れているかではなく、粒度分布、透水性、地下水圧、トンネル径、周辺環境、掘削土の処理条件などを踏まえて選定します。
シールドマシンの速度はどれくらい?掘進速度と1日・1か月の掘削距離を解説
シールドマシンの速度には「掘削中の瞬間速度」とセグメント組立・点検・土砂搬出を含む「1日または1か月の平均掘進量」があります。両者を混同すると実際より速く見えるため注意が必要です。掘削中の速度は一般に毎分数センチ程度で管理されることがあります。国土交通省の鹿児島東西道路の工事資料では、周辺への振動を抑えるため、およそ毎分2cmで進める施工例が紹介されています。一方、大型機の仕様上の最大推進速度として毎分80mmを掲げる例や、高速施工で最大毎分65~68mmを記録した事例もあります。
高速施工の実績では、1日当たり30mを超え、月間700~800m程度に達した国内事例があります。ただし、これは施工条件と設備を最適化した高速度の記録であり、すべての現場に当てはまる標準値ではありません。実際の掘進速度を左右する主な要因は次のとおりです。
- 地盤の硬さ、粘着性、礫や巨石の有無
- 地下水圧と切羽の安定性
- シールドマシンの直径と重量
- 急曲線や勾配の有無
- セグメントの組立時間
- 掘削土の搬出能力と処理設備の能力
- カッタービットの摩耗や点検頻度
- 地中障害物、既設構造物、近接施工の制約
- 騒音・振動や地盤変位に関する管理値
したがって「シールドマシンは時速何kmで進むのか」という問いには、時速ではなく「掘削時は毎分何mm、全工程では日進何m」という単位で答えるのが適切です。工程を比較する際は、最高速度ではなく、停止時間を含めた平均日進量や月進量を確認しましょう。
シールドマシンの値段はいくら?価格相場と費用を左右する要因を解説
シールドマシンには、自動車のような一律のカタログ価格がほとんどありません。トンネルの直径、延長、地質、地下水圧、最小曲線半径、掘削方式、耐圧性能、地中接合の有無などに合わせて設計・製作される受注生産品だからです。
公開資料にある具体例として、愛知県の工業用水道工事では、新しいシールドマシンの製作費を約1億5,000万円、納期を約9か月とする検討事例があります。ただし、これは特定条件の工事における一例であり、シールドマシン全体の相場を示すものではありません。大口径化、高水圧対応、長距離化、岩盤対応、特殊な曲線施工などによって必要な装備が増えれば、費用も大きく変わります。価格を左右する主な項目は次のとおりです。
| 費用要因 | 価格に影響する理由 |
| 掘削外径 | 大口径ほど鋼材、駆動装置、ジャッキ、輸送・組立設備が大型化する |
| 地質・地下水圧 | カッター、耐圧構造、切羽安定設備の仕様が変わる |
| 掘進距離 | 摩耗対策、交換設備、耐久性、バックアップ設備が必要になる |
| 線形 | 急曲線や急勾配では中折れ機構や姿勢制御が複雑になる |
| 排土方式 | 泥土圧式と泥水式では、地上の処理設備や配管も異なる |
| 特殊機能 | 地中接合、拡幅、分岐、障害物切削などで専用機構が増える |
| 再利用の有無 | 既存機の改造・整備が新造より合理的な場合がある |
また、シールド工事の総費用は機械本体だけでは決まりません。立坑、セグメント、裏込め注入、掘削土処理、地上設備、運搬、組立・解体、電力、計測、周辺対策などを含めて評価する必要があります。
見積もりを比較するときは、本体製作費だけでなく、現地への輸送、組立、試運転、消耗部品、保守、到達後の解体・搬出まで含む範囲をそろえることが重要です。
シールドマシンのメーカー
日本には大口径から小口径までシールドマシンを手がける企業があります。業界再編も進んでいるため、過去の社名だけで調べると、現在の事業主体を見誤ることがあります。代表的な国内企業は次のとおりです。
| 企業名 | 主な特徴 |
| JIMテクノロジー | IHI、JFEエンジニアリング、三菱重工業のトンネル掘進機事業を統合。設計、製造、現地据付、アフターサービスまで展開 |
| 地中空間開発(UGITEC) | 川崎重工業と旧・日立造船(現・カナデビア)のシールドマシン事業を統合して発足。大断面、泥土圧式、泥水式などに対応 |
| 奥村機械製作 | 泥土圧式・泥水式をはじめ、岩盤、長距離、急曲線など各種シールドマシンを製作 |
| 国土開発工業 | 小口径分野を含む地下掘進機の設計・製作から施工までを手がける |
「川崎重工」「日立造船」「IHI」「JFE」「三菱重工」といった名前は、過去の製造実績や古い資料でよく見かけます。しかし、現在は関連事業が地中空間開発またはJIMテクノロジーへ統合されています。メーカーへ問い合わせる際は、最新の公式情報で現在の窓口を確認してください。また、施工会社と機械メーカーを同じ一覧に混在させないことも大切です。大手建設会社はシールド工事の豊富な実績を持ちますが必ずしも自社工場でシールドマシン本体を製造しているとは限りません。
シールドマシンは使い捨て?その理由と再利用の実態
シールドマシンが「使い捨て」といわれる最大の理由は、工事ごとの専用設計が多いことです。直径、地質、地下水圧、トンネルの曲線、セグメント寸法、掘削方式が次の現場と一致しなければ、そのまま転用できません。さらに長距離を掘ったカッタービットやシール類は摩耗し、機体にも大きな荷重が加わります。回収のためだけに新しい立坑を造り、大型部材を分解・搬出・輸送・整備する費用が、新造や別仕様への改造費を上回る場合もあります。そのため、一つの工事で役割を終える機体があるのは事実です。
ただし、「使い捨て=機械全体をそのまま地下に捨てる」という理解は正確ではありません。一般的には、到達立坑で解体し、モーター、油圧機器、電気・制御装置など再利用できる設備を回収します。鋼製外殻や前胴など一部だけを残置する場合もあれば、機体を改造して別工事で再利用する場合もあります。シールドマシンを再利用しやすいのは次の条件がそろうときです。
- 次のトンネルの直径が同じ、または改造可能な範囲にある
- 掘削方式と地質条件が近い
- 地下水圧、曲線半径、勾配などの設計条件が合う
- 摩耗や損傷が少なく、整備費が合理的である
- 次の現場までの輸送・保管・工程が合う
実際に既存機の再利用を検討した公共工事の事例や、1台のシールドマシンを地中で方向転換させ、往路と復路の2本を掘削した事例があります。「基本的に使い捨て」と決めつけず、回収、部分再利用、改造、転用を含めたライフサイクルで見る必要があります。
シールドマシンの組立とボルト締め|締付手順・使用工具・トルク管理を解説
シールドマシンは非常に大きいため、完成した状態のまま工事現場へ運ぶことができません。そのため、カッターヘッド、前胴・中胴・後胴、旋回部、作業台などに分割して搬入し、発進立坑の中で組み立てます。各部をつなぐ重要な役割を果たすのが、大径の高強度ボルトです。ボルト締めは、部品同士を単に固定する作業ではありません。ボルトを適切に伸ばして「軸力」を発生させ、その力で接合面を強く押さえ続ける作業です。
なぜ正確なボルト締めが必要なのか
シールドマシンには、掘削時に次のような大きな力が加わります。
- カッターヘッドを回転させる力
- 地盤から受ける抵抗や振動
- シールドジャッキが機体を押す力
- 地下水や土砂から受ける圧力
- 機体の方向を修正するときに生じる偏った荷重
ボルトの締付けが不足すると、接合面に隙間やずれが生じ、振動による緩み、機体の変形、位置精度の低下、部品の損傷につながるおそれがあります。
反対に、締め過ぎるとボルトが塑性変形したり、ねじ山や接合部品を損傷させたりする可能性があります。そのため、「できるだけ強く締める」のではなく、メーカーの組立要領書や設計図で定められた締付条件を守ることが重要です。
シールドマシンのボルトを締める基本手順
シールドマシンの仕様や接合部によって方法は異なりますが一般的には次の流れで行います。
- 接合面を清掃する
接合面やボルト穴に付着した泥、さび、塗料、異物などを取り除きます。異物を挟んだまま締めると、正しい軸力や組立精度を確保できません。 - 部品の位置を合わせる
クレーンや治具を使って部品を正しい位置に合わせ、ボルト穴を一致させます。位置がずれた状態でボルトを無理に挿入してはいけません。 - ボルトを仮締めする
すべてのボルトを軽く締め、接合面を均等に密着させます。最初から1本だけを強く締めると、部品が傾いたり接合面に偏りが生じたりします。 - 複数回に分けて本締めする
対角線上またはメーカー指定の順番で、段階的に締め付けます。例えば、目標値の一部まで締めた後、最終設定値まで締める方法です。 - 締付結果を確認する
使用工具の設定値、締付箇所、作業者、施工日時などを記録し、締付け済みのボルトにはマーキングを行います。必要に応じて軸力や締付角度も確認します。
大型ボルトには油圧トルクレンチなどを使用する
シールドマシンには人の力だけでは安定して締められない大型ボルトが使われることがあります。このような箇所では主に次の工具が用いられます。
- 油圧トルクレンチ
- 電動トルクレンチ
- エアートルクレンチ
- ボルトテンショナー
油圧トルクレンチは大きなトルクを一定の精度で繰り返し加えやすく、狭い場所に多数ある大型ボルトの締付けに適しています。ボルトテンショナーはボルトを軸方向へ直接引き伸ばしてからナットを締める工具です。ねじ面や座面の摩擦による影響を受けにくいため、軸力のばらつきを抑えやすいという利点があります。ただし、ボルトの突出量や工具の設置スペースが必要です。
トルク管理だけでは軸力が完全に同じにならない
締付トルクと軸力には、おおむね次の関係があります。
- :締付トルク
- :トルク係数
- :ボルト軸力
- :ボルトの呼び径
同じトルクで締めてもねじ面のさび、潤滑状態、座面の状態、ワッシャーの有無などによってトルク係数が変わり、実際に得られる軸力にはばらつきが生じます。そのため、使用するボルト・ナット・ワッシャーの組み合わせ、潤滑条件、締付工具、締付順序を統一しなければなりません。国土交通省の土木工事共通仕様書でも、高力ボルトの施工では設計ボルト軸力の確保や、トルクレンチ・締付機の定期的な精度確認が求められています。
シールドマシンに関するよくある質問
シールドマシンはどうやって曲がるのですか?
複数のシールドジャッキの押す量や力を調整し、機体の向きを少しずつ変えて曲がります。中折れ機構を備えた機体では、前胴と後胴の角度も調整します。測量機器で現在位置と設計線との差を確認しながら、急激に方向を変えず、複数の掘進サイクルを通じて修正します。
シールドマシンの中に人は乗っていますか?
大型シールドでは、機内に運転・監視設備や作業空間があり、オペレーターや作業員が点検、セグメント組立、設備管理などを行います。自動化・遠隔監視も進んでいますが、現場の安全管理や保守作業まで含めて完全無人とは限りません。
掘った土はどこへ行きますか?
泥土圧式では、掘削土をスクリューコンベヤーで取り出し、ベルトコンベヤーや土砂運搬車などで地上へ運びます。泥水式では、掘削土を泥水とともに配管で地上の処理設備へ送り、土砂と泥水を分離します。処理した泥水は循環利用されることがあります。
シールドマシンの直径はどれくらいですか?
下水道などに使う小口径機から、道路トンネルに用いる直径十数m級の超大型機までさまざまです。地中空間開発は、掘削外径17.45mの泥土圧式シールドマシンの製作実績を公開しています。必要直径は、トンネルの用途、車線数、設備空間、セグメント厚などによって決まります。
シールド工法のデメリットは何ですか?
機械や立坑、地上設備に大きな初期費用がかかり、短距離では割高になる場合があります。また、地質の急変、巨石、既設杭などの地中障害物は掘進リスクになります。工事ごとの専用設計が多いため、到達後の回収・再利用にも制約があります。
まとめ
シールドマシンは先端で地盤を掘削し、切羽を安定させ、掘削土を排出しながら、後方でセグメントを組み立てるトンネル掘削機械です。地下鉄、道路、下水道、共同溝など、地表への影響を抑えたい都市部の地下工事で重要な役割を果たします。
速度は地質や直径、施工条件で大きく変わり、掘削中の瞬間速度と、停止時間を含む日進量を分けて見る必要があります。値段も一律ではなく、公開事例は参考にとどめ、機械本体から組立・解体まで同じ条件で比較しなければなりません。
また、シールドマシンは工事専用に設計されることが多いため、使い捨てと呼ばれることがあります。しかし、すべての機械が丸ごと地下に置き去りになるわけではなく、解体・搬出、部品回収、一部残置、改造・再利用など、現場に応じた方法が選ばれます。
シールドマシンを正しく理解するポイントは最高速度や本体価格だけを見るのではなく、地盤条件、施工方式、トンネル壁の構築、掘削土処理、到達後の処置までを一つのシステムとして捉えることです。
