
高力ボルト(ハイテンションボルト)とは主に鉄骨構造物や橋梁などで使用される、高い強度を持つボルトのことです。一般的なボルトと異なり、単に締め付けるだけでなく、軸力によって部材同士を強固に締結するのが特徴です。そのため、高力ボルト(ハイテンションボルト)の施工では「締め付け方法」や「トルク管理」が非常に重要になります。特に高力ボルト(ハイテンションボルト)は構造安全性に直結する重要部材であり、正しい理解が不可欠です。
高力ボルト(ハイテンションボルト)の締め付けの基本原理
高力ボルトの締め付けの基本原理は「ボルトを強く引き伸ばすことで発生する軸力を利用し、部材同士を圧着させ、その摩擦力で接合する」という仕組みにあります。ボルトとナットを締め付けるとボルトはわずかに伸びようとし、その反力として強い引張力(軸力)が生じます。この軸力によって、接合される鋼材同士は強く押し付けられ、接触面に大きな面圧が発生します。その結果、部材間には高い摩擦力が生まれ、この摩擦によって外力が加わっても部材が滑らず、一体化した構造として機能します。こうした仕組みは高力ボルト(ハイテンションボルト)特有の接合原理です。
つまり、高力ボルト(ハイテンションボルト)接合は「締め付けによって生まれる摩擦力」によって荷重を伝達する点が特徴です。そのため、適切な締め付けによって十分な軸力を確保することが非常に重要になります。締め付けが不足すると摩擦力が足りず滑りが発生し、逆に締め過ぎるとボルトが塑性変形や破断に至る可能性があります。このように、高力ボルトの締め付けは単なる固定作業ではなく、軸力・面圧・摩擦力のバランスによって成立する、非常に合理的かつ重要な接合原理に基づいています。この点も高力ボルト(ハイテンションボルト)の大きな特長です。
【参考記事】国土交通省公共建築工事標準仕様書(建築工事編)
4節 高力ボルト接合
https://www.mlit.go.jp/common/001472791.pdf
高力ボルト(ハイテンションボルト)の供回りによる締結不良と対処法
高力ボルト(ハイテンションボルト)が供回りを起こすと、本来必要な締め付け軸力が十分に発生せず、接合性能が大きく低下します。供回りとは、ナットを締め付ける際にボルト本体も一緒に回転してしまう状態であり、本来得られるべきボルトの引き伸び(軸力)が確保できなくなります。その結果、部材同士を押し付ける力が不足し、摩擦接合に必要な摩擦力が得られず、滑りや緩みといった不具合のリスクが高まります。特に高力ボルト(ハイテンションボルト)の施工では注意が必要です。
供回りは「締めたつもりでも締まっていない」という非常に危険な状態を引き起こします。このような問題は高力ボルト(ハイテンションボルト)特有のリスクでもあります。このような理由から、供回りが発生した高力ボルト(ハイテンションボルト)は原則として再使用せず、新品に交換するのが基本です。高力ボルトは一度の締め付けで性能を発揮する部材であり、供回りが起きた時点で軸力不足やねじ部の損傷などのリスクがあるため、再締め付けでは設計通りの性能を確保できません。これは高力ボルト(ハイテンションボルト)の重要な取り扱いポイントです。
そのため、供回りが確認された場合は当該ボルトを取り外し、新品に交換したうえで適切に再施工することが、安全性と品質を確保するうえで極めて重要です。こうした対応も高力ボルト(ハイテンションボルト)施工において不可欠です。
高力ボルト(ハイテンションボルト)の種類について
高力ボルト(ハイテンションボルト)には施工方法や用途に応じていくつかの種類があり、代表的なものとして「トルク型」「トルシア形」「めっきボルト」などが挙げられます。それぞれに特長や注意点があるため、使用環境や求められる品質に応じて適切に選定することが重要です。特に高力ボルト(ハイテンションボルト)では軸力管理の方法や施工性の違いを理解する事が安全で確実な締結につながります。
トルク型高力ボルト(F10Tなど)

最も一般的に使用される高力ボルトで、トルクレンチを用いて規定のトルク値まで締め付けるタイプです。ボルト・ナット・座金のセットで使用され、主に摩擦接合として機能します。施工が比較的シンプルで汎用性が高い一方、摩擦係数の影響を受けやすく、軸力にばらつきが出る可能性があります。そのため、適切なトルク管理や校正が重要になります。
F10Tとは、高力ボルトの強度区分(グレード)を表す記号で、「どれくらい強いボルトなのか」を示しています。結論から言うと、F10Tは非常に高い強度を持つ構造用ボルトで、主に鉄骨や橋梁などの重要構造物に使われる標準的な高力ボルトです。
トルシア形高力ボルト(TCボルト)

鉄骨工事で広く使われているタイプで、ボルト先端に「ピンテール」と呼ばれる突起が付いているのが特徴です。専用の締め付け工具を使用し、規定の軸力に達するとこのピンテールがねじ切れる仕組みになっています。これにより、誰が施工しても比較的安定した軸力が確保でき、施工品質のばらつきを抑えられます。現在の建築分野では主流の高力ボルトです。
溶融亜鉛めっき高力ボルト

表面に溶融亜鉛めっきを施した高力ボルトで、防錆性能に優れているのが特徴です。橋梁や屋外構造物など、腐食環境での使用に適しています。ただし、めっきによって摩擦係数が変化するため、締め付け管理には注意が必要であり、通常のボルトとは異なる条件で施工する必要があります。
高強度六角ボルト(摩擦接合用)

六角頭を持つ一般的な形状の高力ボルトでトルク法や回転角法などによって締め付けを行います。比較的自由度の高い施工が可能で橋梁や重機など幅広い分野で使用されます。用途に応じて強度区分(F8T、F10Tなど)が選定されます。
【参考記事】神戸製鋼グループ技術資料
高力ボルトに関する技術資料
https://kobelco-bolt.com/wp-content/themes/kobelco/assets/images/products/034-038.pdf
高力ボルト(ハイテンションボルト)サイズ規格表
| 呼び径(d) | ピッチ(mm) | ナット対辺(mm) | 座金内径(mm) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| M16 | 2.0 | 24 | 18 | 軽量鉄骨・設備 |
| M20 | 2.5 | 30 | 22 | 一般鉄骨 |
| M22 | 2.5 | 32 | 24 | 鉄骨(主流) |
| M24 | 3.0 | 36 | 26 | 中規模構造 |
| M27 | 3.0 | 41 | 30 | 大型鉄骨 |
| M30 | 3.5 | 46 | 33 | 橋梁・重構造 |
| M33 | 3.5 | 50 | 36 | 橋梁 |
| M36 | 4.0 | 55 | 39 | 大型橋梁 |
| M39 | 4.0 | 60 | 42 | 特殊構造 |
| M42 | 4.5 | 65 | 45 | 超大型構造 |
| M45 | 4.5 | 70 | 48 | プラント設備 |
| M48 | 5.0 | 75 | 52 | 重機・大型設備 |
| M52 | 5.0 | 80 | 56 | 超大型構造 |
| M56 | 5.5 | 85 | 60 | 特殊用途 |
| M60 | 5.5 | 90 | 64 | 重工業設備 |
| M64 | 6.0 | 95 | 68 | 超大型構造 |
上記表はあくまで参考値としてご利用ください。表の数値でトラブルが起きても当社では責任を負う事は出来ません。
高力ボルトの締め付け手順
高力ボルトの締め付けは見た目以上に「順番」と「精度」が重要な作業です。正しく行わないと十分な締め付け力(軸力)が得られず、接合部の安全性が大きく低下してしまいます。そのため、基本的には段階を踏んで確実に締め付けていきます。まず最初に行うのが「仮締め」です。これはボルトを軽く締めて、接合する部材同士を正しい位置に整えるための作業です。この段階では強く締める必要はなく、すべてのボルトを均等に軽く締めることで、部材同士の隙間やズレをなくしていきます。ここで位置がずれていると、後の工程で正しい締め付けができなくなるため、とても重要な準備段階です。
次に行うのが「一次締め」です。仮締めよりも強い力で締め付け、ボルトにある程度の軸力を与える工程です。このときも一箇所だけを強く締めるのではなく、全体をバランスよく締めていくことが大切です。一般的には中央から外側に向かって締めるなど、順序を守りながら均等に力をかけていきます。
そして最後に「本締め」を行います。本締めでは、規定されたトルクや回転角度に従って、設計通りの強い軸力をボルトに与えます。ここで初めて、高力ボルト本来の性能が発揮され、部材同士が強く押し付けられることで大きな摩擦力が生まれます。この摩擦力によって、部材がずれるのを防ぐ仕組みになっています。
なぜ段階的に締めるのか

高力ボルトは一気に強く締めるのではなく、段階的に締めることが基本です。もし最初から一本だけ強く締めてしまうと、その部分だけに力が集中し、他のボルトとのバランスが崩れてしまいます。その結果、接合面に隙間ができたり、十分な摩擦力が得られなくなる可能性があります。また、「供回り」と呼ばれる現象にも注意が必要です。これはナットを回しているのにボルト自体も一緒に回ってしまう状態で、この状態では正しい軸力が発生しません。そのため、作業中はボルト側をしっかり固定しながら締め付けることが重要です。
高力ボルトのサイズ規格はM16からM64程度まで幅広く存在し、建築分野では主にM20〜M24、橋梁や大型設備ではM30以上が使用されます。サイズが大きくなるほど必要トルクや締結管理の難易度も上がるため、通常のトルクレンチでの締結は非現実的になります。そのため工具選定が重要になります。工具選定(油圧トルクレンチ or コードレス電動トルクレンチ)も性能に大きく影響するため、サイズ規格の理解は非常に重要です。
