油圧トルクレンチは特に大型産業用機械、プラント設備、重工業、プラント建設や定修工事、大型構造物、建設機械等で欠かせない高トルク・高精度のボルト締結工具で他の工具では出力できない強力なパワーとその他特徴を持っています。以下に油圧トルクレンチの仕組みや具体的な特徴、使用分野についてさらに詳しく説明します。
1. 油圧トルクレンチの仕組みと基本構造
油圧トルクレンチは油圧ポンプからの圧力を利用してトルク(回転力)を発生させるボルト締結工具です。基本的な仕組みは油圧ポンプが油圧トルクレンチ本体に圧力を送り、内部のピストンが動くことで強力なパワーが発生します。この力をボルトやナットに伝え、強力な締め付けが可能になります。また、その強力なパワーゆえに締め作業以上に力を必要とするボルトの緩め作業に使用される事もあります。
油圧ポンプ
ポンプの動力源は圧縮空気か電気になります。最近ではコードレスの電動油圧ポンプも市場に出回っています。油圧を調整することでトルクをコントロールします。ポンプの圧力が上がるほど、トルクも高くなり、非常に精密な締め付けが可能です。また、高出力のポンプであれば1台のポンプで複数台の油圧トルクレンチを同時に稼働させることができるので大幅な作業時間の短縮が可能になります。作業時間短縮によるコスト削減効果が大きな場合はこの方法を積極的に採用すべきでしょう。
ラチェット機構:
本体の内部にはラチェット機構が備わっており、一方向にのみ回転できるようにすることで、ボルトを段階的に締め付けることができます。
反力受け:
ボルトの締め付け時に発生する反動を吸収し、トルクをボルトに均等に伝えるためのものです。作業者が反動に耐えなくても良いため、作業が楽になります。ただこの反力受けは適切な取り扱いをしないと油圧トルクレンチの故障や作業者の怪我につながりますので適切な使用方法についてはメーカーのトレーニングを受ける事を推奨します。特に油圧トルクレンチは駆動軸の回転スピードが非常にゆっくり動くために油断しがちですが想像を絶するほどの力が反力を受ける部分にはかかりますので常に緊張感をもって作業をおこなう必要があります。
2. 油圧トルクレンチの特徴
高トルクでの締め付け
油圧トルクレンチは数万Nm以上のトルクを発生できます。これはトルクレンチや電動トルクレンチでは出力ができないパワーですそのため大きなボルトや、強く締め付ける必要のあるナットの作業に適しています。これにより、重要な現場での作業が可能になります。油圧トルクレンチはポンプの圧力を調整することで正確なトルク管理が可能です。特に、締め付け力にばらつきがあると危険なフランジ接続や重機の固定作業などで、その信頼性が重宝されます。ボルトが緩んだり、締めすぎによる破損を防ぐために、指定のトルクで締める必要がある箇所で非常に有効です。均一な力で締め付けができるため、漏れ防止や安全性向上に役立ちます。
指定のトルクに達すると作動が自動停止するため、作業の精度が保たれます。
反力受けによる反動抑制
ボルトやナットを締める際には反動が発生しますが、油圧トルクレンチは反力アームが反動を吸収するため、作業者の腕や手に負担がかからず、安全に作業ができます。これは、ボルトの摩耗や損傷も防ぎ、締め付け精度を高める効果があります。
高耐久性で長寿命
油圧トルクレンチは耐久性が高く、重工業や建設現場の過酷な環境でも長く使用できるように設計されています。使用頻度が高い現場でも安定して使用でき、機器のメンテナンスも比較的容易です。強度の高い素材で作られているため、耐久性が非常に高く、長期間使用可能です。油圧システムのメンテナンス(油漏れのチェックやフィルター交換など)を行うことで、長く使い続けることができます。また、反動がないため、作業者の安全性が確保され、長時間の作業でも疲労が少なくなります。ボルトや部品に対してもダメージが少なく、機械や設備の耐久性が向上します。
3. 油圧トルクレンチの利便性と導入のメリット
効率的な作業が可能
大口径ボルト締結作業において油圧トルクレンチは手作業や電動工具と比べてはるかに強力なパワーで大口径ボルトを締め付けることができるため、大規模な作業での効率が向上します。反力受けの安定性や正確なトルク設定機能により、誤差の少ない作業が可能になり、工期短縮にもつながります。効率的な使用方法としては仮締めはインパクトレンチでおこない、本締めで油圧トルクレンチを使用する事で作業効率も向上します。
人件費と安全性の向上
反動を吸収する構造や自動停止機能により、作業者の安全性が高まります。また、精密なトルク管理が可能なため、ボルトの破損や過剰な締め付けによる故障のリスクが低減し、メンテナンスコストが削減されます。こうした機能により、作業者の負担が減り、作業効率が向上するため、人件費の削減にもつながります。
4. 油圧トルクレンチの課題
油圧トルクレンチは強力なボルト締結工具ですがいくつかの課題があります。これらの課題はメーカーによって取り組み方が違う可能性がありますので比較検討する事を推奨します。
コストが高い:油圧トルクレンチを使う場合は油圧ポンプも必要になりますので合計で価格は100万円を超えます。より強力なパワーのある油圧トルクレンチであればあるほど値段があがっていき最大で数百万円はかかります。そのため小規模な作業現場では費用対効果を見極めて導入を検討する必要があります。ただしM30以上のボルト締結作業になってくると油圧トルクレンチを使用する現場が多くなります。また、M20前後であったとしてもボルト周辺のスペースが非常に限られている現場であれば手動式のトルクレンチが入らないので油圧トルクレンチを使用する事が多々あります。
設置と操作がやや複雑:ポンプやホースの設置、圧力調整の手間がかかるため、操作には技術的な知識が必要です。また、機器のメンテナンスも重要で、定期的な点検や部品交換が求められます。そのため購入後のサポート体制を確認する上でも油圧トルクレンチメーカーのオフィス訪問はされた方が良いです。当社ではオフィス見学を歓迎しております。
まとめ
油圧トルクレンチは重工業やエネルギー関連施設、インフラ建設など、高い精度と大きな力が求められる作業現場で重宝されるボルト締結工具です。強力なトルク出力、高精度なトルク管理、作業者の負担を軽減する設計、反力吸収機能など、他の工具にはない特徴を持ち、効率的で安全な作業を実現します。近年は油圧トルクレンチの技術革新は目覚ましくスマートフォンのようにタッチパネル形式で取り扱えるコードレス電動油圧ポンプも開発されています。