トルク係数とは?ボルト締結への影響

トルク係数とは、ボルトの締付トルクと軸力の関係を表す係数です。一般的には「K」または「k」の記号で表され、次の計算式で使用されます。一般的なトルク法では、締付トルクと軸力の関係を表す簡易式として、次の式が使用されます。

締付トルクT=トルク係数K×ねじの呼び径d×軸力F

概算ではトルク係数として0.15~0.20程度の値が用いられることがあります。ただし、これは特定の一般条件における参考値であり、潤滑剤、表面処理、ねじ形状、座面状態などによって範囲外になることもあります。しかし、トルク係数は一定ではありません。潤滑剤、表面処理、錆、ねじ部や座面の状態などによって変化します。実際の締結条件に適したトルク係数を採用しないと、設定したトルクで締め付けても、軸力不足や過大軸力が発生する可能性があります。本記事ではトルク係数の意味、計算方法、一般的な目安、摩擦係数との違い、実務上の注意点をわかりやすく解説します。

項目 内容
トルク係数とは 締付トルクと軸力の関係を表す係数
記号 Kまたはk
基本式 T=K×d×F(一般的なトルク法では締付トルクと軸力の関係を表す簡易式として使用されます。)
単位 なし
一般的な目安 概算では0.15~0.20程度が用いられることがある。ただし、使用条件によって変化する
数値が小さい場合 同じトルクでも大きな軸力が発生しやすい
数値が大きい場合 同じトルクでも発生する軸力が小さくなりやすい
主な変動要因 潤滑、表面処理、錆、摩擦、締付速度など
目次

トルク係数とは

トルク係数とはボルトやナットに加えた締付トルクが、どの程度の軸力を発生させるかを表す無次元の係数です。ボルトを締め付けるとボルトが軸方向にわずかに伸ばされます。ボルトを締め付けると、ボルト内部に軸方向の引張力が発生します。この力を「締付け軸力」といいます。その反力として被締結部材には圧縮力が作用し、部材同士が固定されます。これは、伸ばされたボルトが元の長さに戻ろうとする性質を利用したものです。この軸力によって締結部材が押さえ付けられ、部材同士が固定されます。しかし、工具で加えた締付トルクのすべてが軸力に変換されるわけではありません。締付トルクの大部分は、ねじ面やナットの座面などで発生する摩擦によって消費されます。トルク係数は、ねじ部と座面の摩擦、ねじの形状、潤滑状態などの影響をまとめ、締付トルクと軸力の関係を実用的に表した数値です。軸力の意味や重要性については以下の記事で詳しく解説しています。

トルク係数が小さい場合

同じねじ形状や座面形状で比較した場合、トルク係数が小さい状態は一般的にねじ面や座面の摩擦抵抗が小さい状態を示します。締付トルクが軸力に変換されやすい状態です。そのため、同じトルクで締め付けた場合、トルク係数が小さいほど大きな軸力が発生します。例えば、乾燥状態を前提に決められた締付トルクを、潤滑剤が塗布されたボルトにそのまま適用すると、想定以上の軸力が発生する可能性があります。過大な軸力はボルトの塑性変形や破断、ねじ山の損傷、ガスケットや被締結部材の損傷につながることがあるため注意が必要です。

トルク係数が大きい場合

同じねじ形状や座面形状で比較した場合、トルク係数が大きい状態は、一般的にねじ面や座面の摩擦抵抗が大きい状態を示します。締付トルクが軸力に変換されにくい状態です。同じトルクで締め付けてもトルク係数が大きいほど発生する軸力は小さくなります。ねじ部に錆や汚れがある場合や、座面が粗い場合などは摩擦が大きくなり、必要な軸力を得られない可能性があります。軸力が不足すると、振動による緩み、締結部材のずれ、フランジからの漏えいなどが発生しやすくなります。

トルク係数に単位はない

トルク係数は、締付トルクと軸力の関係を表す比率であるため、単位を持たない無次元量です。「トルク係数0.2」のように数値だけで表します。ただし、計算に使用する締付トルク、軸力、ねじ径には単位があります。計算するときは単位を統一しなければなりません。

トルク係数の計算式

締付トルク、トルク係数、ねじの呼び径、軸力の関係は、次の式で表されます。

T=K×d×F

記号 意味 使用する単位
T 締付トルク N・m
K トルク係数 単位なし
d ねじの呼び径 m
F 軸力 N

例えば、M10ボルトの場合、ねじの呼び径は10mmです。締付トルクをN・mで計算する場合は、10mmを0.01mに変換して使用します。ねじの呼び径をmmのまま計算する場合は、次の式を使用します。

T[N・m]=K×d[mm]×F[N]÷1,000

単位を間違えると計算結果が1,000倍ずれるため注意してください。

目標軸力から締付トルクを求める

必要な軸力が決まっている場合は、次の式で締付トルクを求めます。

T=K×d×F

例えば、M10ボルトに12,000Nの軸力を発生させ、トルク係数を0.2とする場合は、次のように計算します。

T=0.2×0.01m×12,000N T=24N・m

したがって、計算上必要な締付トルクは24N・mです。

締付トルクから軸力を求める

締付トルクから発生する軸力を求める場合は、基本式を次のように変形します。

F=T÷(K×d)

M10ボルトを24N・mで締め付け、トルク係数を0.2とした場合は、次のように計算します。

F=24÷(0.2×0.01)F=12,000N

したがって、計算上発生する軸力は12,000N、つまり12kNです。

締付トルクと軸力からトルク係数を求める

締付トルクと実際に測定した軸力がわかっている場合は、次の式でトルク係数を求められます。

K=T÷(d×F)

例えば、M10ボルトを24N・mで締め付けたときに12,000Nの軸力が測定された場合は、次のように計算します。

K=24÷(0.01×12,000)K=0.2

したがって、この条件におけるトルク係数は0.2です。

トルク係数の違いによる軸力の変化

締付トルクとボルト径が同じでも、トルク係数が変わると発生する軸力は変化します。M10ボルトを24N・mで締め付けた場合を比較すると、次のようになります。

トルク係数K 締付トルク ボルト径 発生する軸力
0.14 24N・m 10mm 約17.1kN
0.20 24N・m 10mm 12.0kN
0.26 24N・m 10mm 約9.2kN

トルク係数が0.14の場合と0.26の場合では、同じ締付トルクでも発生する軸力に約1.9倍の差があります。つまり、トルクレンチや動力式トルクレンチの出力精度が高くても、トルク係数が安定していなければ、軸力のばらつきを完全に防ぐことはできません。

トルク係数の目安一覧

一般的なねじ締結では、トルク係数として0.15~0.20程度の値が使われることがあります。ただし、次の数値は設計値やメーカー指定値に代わるものではありません。使用条件によってトルク係数は変化するため、参考値として確認してください。東日製作所の技術資料では、一般的なねじ継手について次の参考値が示されています。一般機械用油脂には、スピンドル油、マシン油、タービン油、シリンダー油などが含まれます。低摩擦用油脂には、二硫化モリブデン系やワックス系の油脂などが含まれます。この表からも、潤滑剤の種類によってトルク係数の平均値とばらつきが変わることがわかります。

なお、KTCでは一般的なトルク係数を0.15~0.20程度と説明しています。また、並目ねじの六角ボルトについてトルク係数を0.2、ねじ面の摩擦係数を0.15に設定した参考トルク値も公開しています。ただし、「トルク係数は常に0.2」と決め付けることはできません。実際の締結作業では、設計図面、機器メーカー、ボルトメーカー、潤滑剤メーカーなどが指定する条件を優先してください。

トルク係数と摩擦係数の違い

トルク係数と摩擦係数は密接に関係していますが、同じものではありません。

比較項目 トルク係数 摩擦係数
記号 Kまたはk μ
表すもの 締付トルクと軸力の関係 接触面の滑りにくさ
対象 ねじ締結全体 ねじ面や座面などの接触面
主な影響要因 摩擦、ねじ形状、座面形状など 材質、潤滑、表面粗さなど
主な用途 締付トルクや軸力の計算 摩擦力やトルク係数の検討
単位 なし なし

摩擦係数は、接触する2つの物体がどれくらい滑りにくいかを示す数値です。一方、トルク係数は、ねじ面と座面の摩擦に加えて、ねじのピッチ、ねじ山の形状、座面の有効径などを含め、締付トルクと軸力の関係を表します。一般的なねじ継手では、トルク係数Kと摩擦係数μの関係を簡易的に示す式として、次の近似式があります。一般的なねじ継手において、ねじ面摩擦係数と座面摩擦係数が同程度であると仮定した場合、トルク係数Kと摩擦係数μの関係は、次の近似式で表されることがあります。

K≒1.3μ+0.025

※この式は、一般的なねじ継手を対象とし、ねじ面摩擦係数と座面摩擦係数を同程度と仮定した近似式です。両者の摩擦係数が異なる場合や、特殊なねじ・座面形状にはそのまま適用できません。

ボルト締結で摩擦が発生する場所

ボルト締結における摩擦は、主に2つの場所で発生します。ひとつはボルトのおねじとナットのめねじが接触する「ねじ面」、もうひとつは、締付時に回転させるナットまたはボルト頭部と、ワッシャーや被締結部材が接触する「座面」です。

トルク係数が変化する主な要因

トルク係数はボルトの材質だけで決まるものではありません。複数の条件が組み合わさって決まります。

潤滑剤の種類と塗布状態

潤滑剤を使用するとねじ面や座面の摩擦が小さくなり、一般的にはトルク係数も小さくなります。ただし、潤滑剤の種類、塗布量、塗布場所が異なると摩擦状態も変わります。ボルトの一部だけに潤滑剤が塗布されている場合は、締結部ごとに軸力がばらつく可能性があります。ねじ部だけでなく、ナット座面など指定された場所へ均一に塗布することが重要です。

めっきなどの表面処理

黒染め、亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきなどの表面処理によって、ねじ面と座面の摩擦状態は変化します。同じ材質・同じボルト径でも、表面処理が異なれば同じトルク係数を使用できるとは限りません。

錆・汚れ・表面粗さ

錆や異物が付着しているボルトでは摩擦が大きくなったり、締付中に摩擦状態が急激に変わったりすることがあります。表面状態が不安定になるとトルク係数も不安定になります。重要な締結部では、ねじ部と座面の状態を確認し、指定された方法で清掃してから締め付けることが必要です。

ワッシャーと座面の状態

ワッシャーの有無、材質、硬さ、表面処理によって座面摩擦が変化します。ワッシャーを追加または変更すると接触条件も変わるため、以前と同じ締付トルクをそのまま適用できるとは限りません。

ねじのピッチと形状

並目ねじと細目ねじではピッチが異なります。また、ねじの有効径、ねじ山の角度、座面の有効径などもトルク係数に影響します。トルク係数を見積もるときや、計算に使用する値を決めるときはボルト径だけでなく、ねじの種類や形状も確認する必要があります。

締付速度

締付速度が変わると摩擦状態や発熱の程度が変化し、トルク係数に影響することがあります。手動トルクレンチと高速の動力式工具では締付条件が異なるため、同じ設定トルクでも同じ軸力になるとは限りません。

ボルトやナットの再使用

一度締め付けたボルトやナットは、ねじ面や座面が摩耗したり、表面処理や潤滑状態が変化したりすることがあります。再使用によってトルク係数が変化する可能性があるため、ボルトやナットの再使用についてはメーカーや設計者の指示を確認してください。

トルク係数を誤ると何が起こるのか

トルク係数の設定を誤ると、締付トルクが正しくても必要な軸力を得られない可能性があります。

想定よりトルク係数が小さい場合

実際のトルク係数が計算時の想定より小さいと、同じ締付トルクでも想定以上の軸力が発生します。その結果、次のような問題が起こる可能性があります。

  • ボルトの塑性変形や破断
  • ねじ山の損傷
  • 被締結部材の変形
  • ガスケットの過圧縮
  • 座面の陥没

想定よりトルク係数が大きい場合

実際のトルク係数が計算時の想定より大きいと同じ締付トルクでも軸力が不足します。その結果、次のような問題が起こる可能性があります。

  • 振動によるボルトの緩み
  • 締結部材のずれ
  • フランジからの漏えい
  • 接合部のすべり
  • ボルトへの繰り返し荷重の増加

トルク係数は、単に計算式へ代入するための数値ではありません。ボルト締結の安全性と再現性を左右する重要な条件です。

実際のトルク係数を決める方法

重要なボルト締結ではインターネット上の一般的な参考値だけを使って締付トルクを決定するべきではありません。次の手順で実際の使用条件を確認します。

設計値やメーカー指定値を確認する

最初に、図面、施工要領書、機器メーカーの取扱説明書、ボルトメーカーや潤滑剤メーカーの資料を確認します。締付トルクだけでなく、次の条件も確認してください。

  • ボルトの材質と強度区分
  • ボルト径とねじピッチ
  • 表面処理
  • 使用する潤滑剤
  • 潤滑剤を塗布する場所
  • ワッシャーの仕様
  • 目標軸力
  • 締付方法と締付順序
  • 工具の種類

ボルトの強度区分については、以下の記事でも解説しています。

【参考記事】ボルトの強度区分とは

実際の締結部品で試験する

高い精度が必要な場合は、実際に使用するボルト、ナット、ワッシャー、潤滑剤を組み合わせて試験します。ロードセルなどの軸力測定器を使用し、締付トルクと発生した軸力を測定すれば、次の式から実際のトルク係数を求められます。

K=T÷(d×F)

複数回測定することでトルク係数の平均値だけでなく、ばらつきも確認できます。

締結条件を統一する

試験でトルク係数を確認しても、実際の作業条件が異なれば同じ軸力を再現できません。次の条件を作業手順書で統一することが重要です。

  • 潤滑剤の種類
  • 潤滑剤の塗布量と塗布場所
  • ボルト・ナット・ワッシャーの組み合わせ
  • ねじ部と座面の清掃方法
  • 締付工具
  • 締付速度
  • 締付順序
  • 目標トルク
  • 使用部品の再使用可否

トルク係数を含めた具体的な管理方法については、以下の記事をご覧ください。

トルク係数についてよくある質問

トルク係数の一般的な値はいくつですか?

一般的なねじ締結では、0.15~0.20程度が目安として示されることがあります。ただし、潤滑剤、表面処理、ねじ形状、座面状態などによって変化します。メーカーや設計者から指定された値がある場合はその値を優先してください。

トルク係数は0.2で計算してもよいですか?

概算や参考計算で0.2を使用することはありますがすべてのボルト締結に0.2を適用できるわけではありません。潤滑されたボルトに0.2を適用すると、実際には想定より大きな軸力が発生する可能性があります。重要な締結部では、メーカー指定値や実測値を使用してください。

トルク係数が小さいほど優れているのですか?

トルク係数は小さければよいというものではありません。トルク係数が小さいと少ないトルクで大きな軸力を得られますが、指定トルクを変更せずに潤滑条件だけを変えると、過大軸力が発生する可能性があります。重要なのはトルク係数の値そのものよりも、値が把握され、締結部ごとのばらつきが小さく管理されていることです。

トルク係数と摩擦係数は同じですか?

同じではありません。摩擦係数は接触面の滑りにくさを表します。トルク係数は、ねじ面と座面の摩擦、ねじ形状などを含め、締付トルクと軸力の関係を表す係数です。

トルク係数はどのように測定しますか?

締付トルクと軸力を同時に測定し、次の式から算出します。

K=T÷(d×F)

軸力はロードセルなどで測定できます。また、超音波軸力計を使用し、超音波の伝播時間から求めたボルトの伸びを軸力へ換算する方法もあります。超音波法では、ボルトの材質や形状に応じた校正条件が必要です。精度が必要な場合は、複数回試験して平均値とばらつきを確認します。

潤滑すると締付トルクを下げる必要がありますか?

潤滑によってトルク係数が小さくなる場合、同じ目標軸力を得るために必要な締付トルクも小さくなります。ただし、どの程度変更するかは潤滑剤や締結条件によって異なります。任意の割合で締付トルクを下げず、潤滑剤メーカーや設計者の指定値を確認してください。

まとめ

トルク係数は、締付トルクとボルト軸力の関係を表す重要な係数です。基本的な関係は次の計算式で表されます。

T=K×d×F

トルク係数が小さいほど、同じ締付トルクで大きな軸力が発生します。反対に、トルク係数が大きいほど発生する軸力は小さくなります。一般的な目安として0.15~0.20程度が使われることがありますが、トルク係数は固定値ではありません。潤滑剤、表面処理、錆、ねじ面と座面の状態、締付速度などによって変化します。重要な締結部では一般的な参考値だけで締付トルクを決定せず、メーカー指定値や実際の締結部品を使った試験結果を優先してください。また、適正な軸力を再現するためには潤滑方法、部品の組み合わせ、締付工具、締付順序などの作業条件を統一することも重要です。

 

 

 

この記事を書いた人

ユネックス合同会社編集部は、産業用ボルト締結工具メーカー「HYTORC(ハイトーク)」の日本法人であるユネックス合同会社が運営する技術情報メディア「ハイトークナビ」の編集部です。トルクレンチ、トルク管理、ボルト締結、軸力、ねじ・ボルト・ナットなど、締結作業に関する情報を中心に発信しています。

ユネックス合同会社は、油圧・電動・空圧式のボルト締結工具の販売・レンタルや、ボルト関連製品を取り扱っています。編集部では、HYTORCの製品・技術資料や取扱説明書に加え、JIS・ISO等の規格、公的機関・業界団体の資料なども確認し、技術的な正確性を重視して記事を制作しています。専門的な内容をできるだけ分かりやすく整理し、ボルト締結やトルク管理に携わる方の課題解決に役立つ情報を提供することを目的としています。

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