電動トルクレンチの魅力と仕組みを解説

トルク値400 ft-lbを示す電子式トルクレンチの液晶ディスプレイ

正確なトルク締めを可能にするコードレス電動トルクレンチ

電動トルクレンチとはボルトやナットを締め付ける際に一定のトルク(回転力)を正確に適用できるボルト締結工具です。特に高トルクを必要とする発電所、プラント、橋梁、鉄道、造船、重機メンテナンスなどの分野で電動トルクレンチが使用される事が多いです。従来の手動式トルクレンチでは作業者の負担が大きく、トルク管理も容易ではないという課題がありました。しかし電動トルクレンチの登場により、短時間で確実な締め付けが可能となり、作業効率が飛躍的に向上しております。電動トルクレンチは業界で注目の製品です。

良く勘違いされる製品に電動インパクトレンチがありますが電動インパクトレンチではトルク管理はできません。

高トルクの出力を可能にする理由

電動トルクレンチの内部構造が見える画像

電動トルクレンチは便利です

電動トルクレンチが高トルクを出力できる理由は大きく分けて三つあります。まず第一に高性能な電動モーターの搭載が挙げられます。電動トルクレンチには強力なモーターが内蔵されており、これが大きな回転力を生み出す原動力となります。特に近年ではブラシレスモーターを採用したモデルが増えており、従来のブラシ付きモーターに比べて効率が良く、発熱を抑えながら安定した高トルクを発揮することができます。モーターの出力が強いほど、それに比例してトルクも向上するため、産業用途向けの電動トルクレンチでは1,000Nmを超えるトルクを発生させることが可能です。

高精度な金属製の歯車が噛み合う産業用機械のギアメカニズム。機械工学や製造業、自動車や航空産業の動力伝達システムに使用される

減速機構を搭載

次に内部に組み込まれた高精度な減速機構が大きく関わっています。電動トルクレンチのモーターは非常に高速で回転しますがそのままの回転速度では必要なトルクを確保することができません。

そこで内部に減速機構を搭載し、回転速度を落とすことでトルクを増幅させます。特に遊星歯車機構(プラネタリーギア)を採用することでコンパクトな設計ながら大きな減速比を実現し、高いトルクを発生させることができます。これらのギアシステムによって、モーター単体では生み出せないほどの強力なトルクを実現しているのです。

デジタル制御回路を搭載したモデルではモーターの回転速度や負荷状況をリアルタイムで監視し、必要に応じて電流を調整することで安定した高トルクを維持することができます。また、あらかじめ設定したトルク値に達すると自動的に停止する機能も備わっており、締め過ぎや緩みを防ぎながら効率的に作業を進めることができます。

このように電動トルクレンチが高トルクを発生できるのは強力な電動モーター、高精度な減速機構、そして高度な電子制御技術という三つの要素が組み合わさっているからです。それぞれが連携することで強い締め付け力を必要とする作業でも、確実かつ安全にボルトを締め付けることが可能になっています。

電動トルクレンチが持つ魅力とは?

高精度なHYTORCのコードレス電動トルクレンチの近接画像

このモデルで最大1600Nm前後出力能力があります

電動トルクレンチのトルク設定スイッチ

様々な機能が搭載されています

高トルク対応の電動トルクレンチが持つ最大の魅力はその圧倒的な締め付け力と精度の高さにあります。数百Nm(ニュートンメートル)以上のトルクを正確に適用できるため、大型ボルトの締め付けに最適です。例えば、橋梁や鉄道車両の組み立てでは1,000Nm以上のトルクが求められるケースがありますが高トルクの電動レンチならそれらのボルトを締め付けることができます。

HYTORCのコードレス電動トルクレンチLST8000

最大10,000Nmまで出力可能なLST8000

また、電動トルクレンチを使用することで作業時間の大幅な短縮が可能になります。従来の手動式トルクレンチを使った作業では一つのボルトを締め付けるのに数分かかることもありましたが電動トルクレンチですと作業時間が大幅に短縮されます。特に大量のボルトを扱う作業ではこの時間短縮効果が大きなメリットとなります。

さらに電動トルクレンチは事前に設定したトルク値で自動的に停止するため、締め過ぎや緩みを防ぐことができます。これにより、ボルトの破損を防ぎ、均一な締め付けを実現することで、作業品質の安定化につながります。特に高トルクが求められる建設やプラント設備の作業では適正トルク管理が不可欠です。

トルク出力値の精度を保持するためには校正を定期的におこなう事が前提です。

加えて、最新の電動トルクレンチは軽量設計やコンパクトなボディを採用しているものが多いだけでなく反力受けを用いて反力を取るため振動や騒音が少ないため、エアインパクトレンチと比べて作業環境を快適に保つことができます。

電動トルクレンチはどんな業界で活躍するのか?

高トルクのボルト締結作業が可能な電動トルクレンチはさまざまな業界で活躍しています。例えば、建設業では鋼構造物やボルト接合に使用され、1,000Nm以上のトルクが求められることもあります。大型車両整備ではタイヤ交換のためにホイールや足回りの整備に活用され、主に500Nm程度のトルクが適用されます。

作業者が36Vバッテリー式のコードレストルクレンチでボルトを締め付けている様子

コードレス電動トルクレンチでトラックホイールを締結している様子

列車の車輪とレールの摩擦で飛び散る火花

鉄道車両の整備には適切なトルク管理が求められます

また、鉄道や造船の分野ではレールの固定や船体の組み立てなど、大型ボルトの締め付けが必要な場面が多く、800〜2,000Nmの高トルクが要求されます。産業設備やプラントでは大型機械の組立やメンテナンスに1,000〜3,000Nmのトルクが必要となることもあります。さらに風力発電や送電鉄塔の建設メンテナンスでは、2,000Nm以上の超高トルクが求められるケースもあります。今まではコード付きの電動トルクレンチがほとんどだったのですが近年の技術革新によってバッテリー式の電動トルクレンチが急速に普及し始めておりこれらの工具は特に高所作業で使用され始めています。

高トルクの電動トルクレンチを選ぶポイント

コードレス電動トルクレンチを使用したボルト締結作業

トリガー引き続けるだけでトルク締めが可能です

高トルクの電動トルクレンチを選ぶ際には、いくつかの重要なポイントを考慮する必要があります。まず第一に用途に適したトルク範囲のモデルを選ぶことが重要です。例えば、建設業では1,000Nm以上のトルクが必要になることが多いため、それに対応可能なモデルを選ぶことが求められます。また、振動や騒音レベルも選定のポイントになります。これらの電動トルクレンチは反力を反力受けで取るため特にインパクトレンチよりも静かなギア式(ギヤトルクレンチ)の方が作業負担が少なくなります。

コードレス電動トルクレンチ向け36V充電式バッテリー

このバッテリーで1000Nm以上のボルトの締結作業をおこないます。

次に電源タイプの違いを理解することも重要です。電動トルクレンチにはAC電源を使用するコード式とバッテリーで駆動する充電式の2種類があります。コード式は高出力で連続使用が可能なため、工場や建設現場での作業に適しています。一方、充電式は持ち運びが簡単でコードが不要なため、屋外や高所作業に向いています。最近の電動トルクレンチにはデジタルトルク表示機能やトルク記録機能(データ管理機能)が搭載されているモデルもあります。これらの機能は品質管理が求められる現場で特に重宝されます。

最新の電動トルクレンチの機能について

指で操作する未来的なデジタルインターフェース

市場は革新的な機能を求めています

最新の電動トルクレンチには従来の基本機能に加えて、より精度の高いトルク管理や作業の効率化を実現するための様々な機能が搭載されています。特にデジタル技術やバッテリー性能の向上により、利便性や安全性が大きく進化しています。近年の電動トルクレンチはデジタル制御やワイヤレス技術、バッテリー性能の向上により、より精密で使いやすい工具へと進化しています。

デジタルトルク管理やトルクデータの記録機能により、締め付け作業の品質管理が向上し、コードレス化や低振動設計によって作業者の負担も軽減されています。さらにBluetoothによるデータ共有、過負荷防止機能など、安全性や利便性の向上も進んでいます。こうした機能の進化により、電動トルクレンチはこれまで以上に多くの現場で活躍し、より高精度で効率的な作業を実現する重要なツールとなっています。

1. デジタル制御による精密なトルク管理

トルクをコントロール

トルク管理は重要です

最新の電動トルクレンチにはデジタルトルク制御機能が搭載されており、設定したトルク値に到達すると自動で停止する機能が備わっています。1Nm単位でトルク調整可能な製品もあります。これにより、締め過ぎやトルク不足を防ぐことができ、ボルトの破損やゆるみといったトラブルを回避できます。

特にトルクの誤差を最小限に抑えた精密作業が求められる場面ではこの機能が非常に役立ちます。トルク調整は1Nm単位で設定できる機能はユーザーから評価されます。

2. トルクデータの記録・管理機能

スマートフォンでデータ管理をする

スマートフォン等でデータ管理可能

作業の品質管理を向上させるため、多くのモデルにはトルクデータを記録できる機能が搭載されています。これにより、作業後に締め付けトルクを確認したり、データをUSBやBluetoothで転送して、品質管理やトレーサビリティの向上に活用することができます。

建設現場や自動車工場などでは締め付けトルクの証明が求められるケースも多く、この機能が重宝されるケースが徐々に増加傾向にあります。

3. バッテリー性能の向上(コードレス化)

HYTORC製の36Vバッテリー。黒い頑丈なケースに銀色のラベルが貼られ、TESTボタンとインジケーターが上部に配置されている。高出力の電動工具用バッテリー

バッテリーの技術革新は顕著です

近年ではリチウムイオンバッテリーの技術向上により、コードレス(充電式)の電動トルクレンチが増えています。従来のコード式と比べて取り回しがしやすく、狭い場所や高所作業でも便利になりました。

特にバッテリーの持ちが良くなり、一回の充電でより多くのボルトを締められるようになったため、屋外や電源の確保が難しい場所でも活躍します。また、一部のモデルでは予備バッテリーを簡単に交換できる設計になっており、作業の中断を最小限に抑えることができます。

4. 低騒音・低振動設計

コードレス電動トルクレンチ

低振動かつ静音

従来のエアインパクトレンチと比べて、最新の電動トルクレンチは低騒音・低振動を実現しています。これにより、作業者の負担が軽減されるだけでなく、工場や建設現場での作業環境を快適に保つことが可能になっています。

また、振動が少ないことで長時間の作業でも手や腕への負担が少なく、作業の疲労を軽減する効果もあります。

5. マルチモード機能(トルク・角度制御)

多機能で高性能のボルト締結工具

多機能かつ軽量設計

最新の電動トルクレンチにはトルク設定だけでなく、角度制御モードが搭載されているモデルもあります。これはボルトを特定の角度まで回転させることでより均一な締め付けを実現する機能です。

例えば、航空機のメンテナンスなど、トルクだけでなく回転角度の管理も重要な場面で活用されています。ご興味がある方は実機でご試用してはいかがでしょうか?

6. ワイヤレス接続(Bluetooth)

3DレンダリングされたBluetoothロゴが黒い布の上に配置されたデザイン画像

ワイヤレス接続は便利です

最新の電動トルクレンチの中でもハイエンドモデルではBluetoothによるワイヤレス接続機能を搭載しているものもあります。これにより、スマートフォンやタブレットと連携し、リアルタイムでトルクデータを確認したり、作業履歴をパソコンなどに保存することが可能になります。特に複数人が同じ現場で作業する場合、データを共有して作業ミスを防ぐことができるため、品質管理の向上につながります。

電動トルクレンチのデメリット

ビジネスのデメリットやリスクを象徴するパズルのイメージ

デメリットを説明します

便利な電動トルクレンチですがデメリットも存在ます。近年ではバッテリー技術の進歩により電動トルクレンチはコードレス化が主流になりつつあります。コードレスモデルの場合、一定時間使用するとバッテリーの充電が必要になり、作業を中断しなければなりません。また、バッテリーは消耗品であり、充放電を繰り返すことで劣化が進み、数年ごとに交換が必要になります。

床上の配線コード

有線はデメリットが多数あります

一方、有線式の電動トルクレンチはバッテリーの問題はありませんが電源コードの取り回しが制約 となります。作業エリアが広い場合、コードが絡まったり、延長ケーブルが必要になったりするため、取り回しが煩雑になりやすいです。特に高所作業や狭いスペースでの使用ではコードが障害物に引っかかるリスクがあり、作業の自由度が下がることがデメリットとなります。

HYTORCの電動トルクレンチでフランジボルトを締める作業者

電動トルクレンチは衝撃に弱いです

さらに電動トルクレンチは落下や衝撃に弱いという点もデメリットの一つです。精密な電子制御部品やセンサーを搭載しているため、誤って落としたり、強い衝撃を与えたりすると故障するリスクが高まります。エアー式や油圧式のトルクレンチと比べても、電子部品が多いため、修理費用が高額になる可能性があることもデメリットとして挙げられます。これらのデメリットを考慮した上で導入を検討していただくのがよろしいかと思います。そのためまずは1週間程度ご試用いただいて利便性を確認した上で導入するかどうかを判断していただくのが妥当な選択肢ではないかと思います。

高トルク対応電動トルクレンチ

電動トルクレンチは高価な製品です

また、電動トルクレンチは高トルク出力モデルの場合、価格が高額です。特に工業用や高トルク仕様のモデルでは価格は100万円以上することも珍しくありません。電動トルクレンチの価格が高くなる理由の一つは精密なトルク制御機能を搭載している点です。ボルトを一定のトルクで締めるための電子制御が組み込まれており、特にデジタル管理やデータ記録機能を備えたモデルはより高価になります。また、工業用途向けの製品は、高トルクを安定して出力できるように設計されており、耐久性の高いギアやモーター、頑丈なボディ素材を使用しているため、その分コストがかかります。

まとめ

作業者がコードレス式の電動トルクレンチを片手で保持している様子

軽量かつ小型のバッテリー式トルクレンチ

高トルクに対応した電動トルクレンチは圧倒的な締め付け力と精度の高さを持ち、作業時間の短縮や労力の軽減に大きく貢献します。また、適正なトルク管理が可能なため、作業品質の安定化と安全性の向上にもつながります。特に建設業、大型車両整備、鉄道、風力発電などの分野では作業効率を向上させ、安全性を確保するために欠かせない工具となっています。

用途に応じた最適なモデルや反力治具を選ぶことでより効率的かつ確実な作業を実現することができます。今後も技術の進化とともに、さらに使いやすく高性能な電動トルクレンチが登場することが期待されます。

電動トルクレンチはレンタルに対応可能な会社が多いのでスポットで使用を検討するお客様もご利用いただけるかと思います。詳しくは各社にお問い合わせをお願いします。